2019年10月09日

慢心の戒め

「徒然草」 イラスト古典全訳 橋本武 日栄社 1989年
第百六十七段より

p166〜
 「… 自分の知らぬ道のことがうらやましく感じられたら、「ああうらやましい。私もどうして習っておかなかったのだろう。」と言っておくが良い。自分のすぐれた点を取り出して人と争うのは、角のあるものが角を傾け、牙のあるものが牙を噛み出すのと少しもかわらない。
 良識をそなえた人間としては、自分の長所を鼻にかけず、誰とも競争しないのが美点と考えられる。他の人に比べてすぐれたことがあるのは、実はかえって大きな欠点になるものなのである。家柄の高いことでも、学問・芸能のすぐれた点でも、先祖の功績という面でも、人よりすぐれていると思っている人は、たといそのことを口に出して言わないとしても、内心には多くの欠点を持つことになる。だから、十分に注意してこんなものは忘れてしまうのがよい。だいいち馬鹿げて見えるし、人にも非難されるし、思いがけぬ災難を招くことにもなるのは、ただこの慢心一つによるものである。
 一つの道に真に熟達している人は、自分自身はっきりと自分の欠点を見抜いているがゆえに、常に自己満足をいだくことなく、誰に対しても絶対に自慢してみせるようなことはないのである。」

(原文)
 「知らぬ道の羨ましく覚えば、「あな羨まし。などか習はざりけん」と言ひてありなん。我が智を取り出でて人に争ふは、角ある物の、角を傾け、牙のある物の、牙を咬み出だす類成り。
 人としては、善に戈らず、物と争はざるを徳とす。他に勝ることのあるは、大きなる失なり。品の高さにても、才芸のすぐれたるにても、先祖の誉にても、人に勝れりと思へる人は、たとひ言葉に出でてこそ言はねども、内心にそこばくの咎あり。慎みて、これを忘るべし。痴(をこ)にも見え、人にも言へ消(け)たれ、禍をも招くは、ただ、この慢心なり。
 一道にもまことに長じぬる人は、自ら、明らかにその非を知る故に、志(こころざし)常に満たずして、終に、ものに戈る事なし。」


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自慢の種を消せ。
posted by Fukutake at 09:50| 日記

2019年10月07日

シュレディンガーの猫

「SF 宇宙科学講座 −エイリアンの侵略からワープの秘密まで」
ローレンス・M・クラウス 堀千恵子 訳 日経BP社 1998年

かわいそうな猫
p229〜
 「量子力学が抱える観測問題は少々陳腐ではあるものの、啓発的である。… 一九三五年、量子力学を築いた一人であるオーストリアの物理学者エルビン・シュレディンガーは、猫の早死を扱った「茶番劇」と自ら呼ぶ道具立を整え、微視的な世界の話を巨視的な物体に置き換えて考えると、いかに量子宇宙がばかげているかを説明した。仕組みは次の通りだ。シュレディンガーの猫が閉じ込められている箱は、青酸ガスの瓶がハンマーの下に置かれた鋼鉄製の密閉容器で、少量の放射性物質が入っているガイガー計数機が接続されている。一時間以内に放射性物質の原子が崩壊する確率は五分五分だ。もし崩壊が起きれば、放電して計数機がこれを検知し、それを合図にハンマーが打ち下ろされ、瓶を壊して毒を発生させる。かくして、猫は一巻の終わりとなる。この場合、各放射性原子の波動関数が、一時間後に箱を開けて系を「観測」するまでは、崩壊する状態としない状態がコヒーレントなまとまりで存在している。では、猫の生死がその状態の如何によって決まってしまうとしたら、猫は生と死の状態の重ね合わせにあると言ってはいけないのか。
 もちろん、だめだ。
 その解決策として、宇宙は目にしている姿よりも、ずっと無限で(まさしく!)複雑だと唱えた説がある。おかげで、SF作品のテーマの定番となってきた。フィクションを作る上で、これほど想像力をかき立てるものは他にないだろう。量子力学の「多世界」解釈と銘打ったこの解決策によれば、猫と粒子の間の根本的な差は、私たちが猫を観測できる点にあるという。自分自身や意識を量子力学上の物体として扱うとすると、私たちも同じく、猫、毒ガスの瓶、箱と絡み合って存在していると考えなければならない。猫の状態を見る(「観測する」)までは。二つの対の状態から、瓶、猫、私たちを表す波動関数が作られるのだ。すなわち、原子崩壊が起こらず、猫が生きていて、箱を開けて悲しむ自分の状態が混在しているというわけである。猫を見た瞬間に、その波動関数がつぶれ、前記の二つの可能性の一つに落ち着く。宇宙では量子の波動関数が無限に「枝分かれ」して広がっていき、意識が働くたびに、その分岐した可能性の一つに従って進む。私たちは宇宙を一つしかないと理解しているが、それは運命で自分の知覚の世界を選んだからに他ならない。対を組む量子の相棒は、もう一つの知覚の世界に住み、私たちの世界の猫が生きていれば、相棒の猫が死に、逆の状態も存在する。友人の物理学者は冗談とも本気ともつかない調子でこう言う。「この解釈を聞くとホッとするね。ミスをしたり、大きな発見を見逃したりしたときでも、自分の量子の相棒がそんなドジを踏んでいない波動関数の世界に住んでいると思えばいいんだから。」」

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ご存知並行宇宙!

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posted by Fukutake at 08:50| 日記

2019年10月04日

予知

「イラスト古典全訳 徒然草」 橋本武 日栄社 1989年

第一四六段
 「明雲座主が人相見にお向かいになって、「この自分に、ひょっとして剣難の相がありはしないか。」とお尋ねになったところ、人相見は「確かにその相がおありになります。」と申した。重ねて「それはどんな相なのか。」とお尋ねになったところ、「傷害をお受けになる恐れなど、おありになるはずのない御身でありながら、かりそめにもこのように思いつきになってお尋ねになる、このこと自体が、すでに剣難に遭遇する危険性の高い前兆です。」と申し上げた。
 果たして、その言葉どおりに、矢に当たっておなくなりになってしまった。」


(原文)
 「明雲座主、相者にあひ給ひて、「己れ、もし兵杖の難やある」と尋ね給ひければ、相人、「まことに、その相おはします」と申す。「如何なる相ぞ」と尋ね給ひければ、「傷害の恐れおはしますじき御身にて、仮にも、かく思(おぼ)し寄りて、尋ね給ふ、これ、既に、その危(あやぶ)みの兆しなり」と申しけり。
 果して、矢に当りて失せ給ひけり。」

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posted by Fukutake at 09:24| 日記