魏の曹操の政策

「宮�ｱ市定全集　２」　ー東洋史ー　岩波書店　１９９２年

曹操　p５９〜

　「曹操において驚嘆すべきは、その飽くまでも組織的なる綿密な頭脳である。　彼は天下の騒乱により、無主不墾の棄地が生じたるを没収して国有とし、貧民を招いて軍制をもって耕作に従事せしめ、いわゆる屯田を施行した。　これは当時の地主が行えることをそのまま国家の手に移したもので、国家が資本家となり、人口に応じて土地を分配し、耕牛、種穀を貸与してその生産の半額以上を上納せしむるものである。　魏は地方豪族の歓心を買わんがために、天下の耕地に対する租税はきわめて小額にとどめ、主要なる歳入はかくのごとき国家私有地より生ずる小作料に仰いだのである。　ここにおいて天下の田土は自ら二種に分れた。　一は国家が人民に公開せる土地占田であり、人民が私有するを許されしもの、その税額は大約収穫の十分の一、畝三、四升であって極めて軽い。　他は国家の私有地課田にして、この地において従事する者は国家の農奴であり、小作料として租税よりも五倍以上の重き負担に服せねばならなかった。

　曹操は功業により魏王に封ぜられ、漢帝国の下に魏王国が重複して中国を支配するという、二重国家が現出したが、曹操の子曹丕に至って漢を廃し、魏王朝を立てた。　魏は黄河沿岸の古の中原地方を悉く平定したが、このころ揚子江流域の開発進み、南方に拠って中原に対抗するものが生じた。　呉、蜀の二国がこれである。　漢以前においては殆ど中原が中国全体であったが、曹操は中原統一の後、南征して、孫権、劉備の連合軍と赤壁に戦って破れ、南中国が中原より分離した。　揚子江流域は地形上三段に分れ、上流蜀はまた益州と呼ばれ、現今四川省の盆地であり、中流漢口を中心とする湖北、湖南は当時の荊州、それより下流は古の呉であり、当時揚州に属した。　

　呉には孫権が父兄の遺業を受けて、かつて戦国時代に中原に覇を称えんとし、更に項羽の下に覇を唱えて万丈の気を吐いた呉人の子孫を率いてすでに牢固たる地盤を築いていた。　赤壁の戦後劉備は蜀を定め、荊州をも領してにわかに強盛となったので、呉は荊州を割譲を要求し、二国交戦の後、遂に呉が荊州を併合するに至り、蜀は奥地に引込みて、ここに三石鼎立の形勢が成立した。　劉備が漢の一族であり、国を漢と称するので、大義名分に上より、蜀漢を正統として、歴史を記述する蜀の年号をもってするのが、これまで普通に中国に行われていた方法であるが、中国のごとき革命の国において、強いて大義名分に執着しようとしても、やり切れるものではない。　当時の天下の形勢はやはり、魏を中心として廻転していたのである。」

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