2023年01月29日

男の唯一正しい選択

「ツチヤ学部長の弁明」 土屋賢一 講談社 2003年

女は選び上手である p61〜

 「女には多くの美点があるが、残念なことに、その美点に気づいている女は少ない。
 たとえば自分を美人だと思っている女は驚くほど多い(どうして分かるかというと、多くの女は、「お前は美人だ」と言っても怒ることはないが、「ブスだ」と言うと激怒するからである)。 そういう女はたいてい、本当の美点に気づいていない。 美しいと思い込むのが上手なのに、その自覚がないのは惜しいことだ。

 中でも、中年女は自分には何もいいところがないと思っているのではなかろうか。 わたしは中年女の言動を見るにつけ、胸を痛めている一人であるが、彼女たちも、自分のいいところに気づけば、あそこまでヤケになることもないのに、と思う。
 実際、わたしは中年女をずっと賛美してきた。 たとえば、わたしが行き倒れになったとき、助けてくれそうなのは男でも若い女でもなく、中年女ではないか、とまで絶賛した。 たしかに中年女に助けられた方が野垂れ死にするよりも被害は大きいかもしれないが、中年女が行き倒れになったわたしを面白半分に蹴飛ばしたり踏みつぶしたりしないだけでも、賞賛に値する。

 ここでは、女が中年になってももち続けている美点を一つだけ取り上げたい。 それは、選び上手だということだ。 断っておくが、中年女の美点は他にもいっぱいある。 他にどんな美点があるのか、いつの日にか一つでも発見するのがわたしの夢である。

 中年女が選び上手だということは、ちょっと考えてみれば明らかである。 家具を選び、マンションを選び、子どもの学校を選び、夫の小遣いの金額を選ぶのは、女である。 女が勝手に、選ぶ係になっているのではない。 家族から選択をまかされているのだ。 その証拠に、夫や子供が選ぶと必ず文句は出るのに、女の選び方に文句をつける者はいないのである。

 「好きこそものの上手なれ」といわれる通り、女は選ぶのが好きである。 欲しいものを買った一時間後にカタログを見て選んでいるほどだ。 女は所有欲や食欲だけでなく、選択欲も購買欲も強いのである。
 生物学的に見ても、女は選ぶ側である(男は女が選んだものを買う側である)。 それだけに、比較する能力はすぐれている。 こっちの品物の方が五円安い、こっちの男が乗っている車の方が高い、などをいとも簡単に見抜く能力がある。
 当然のことながら、女には、正しい洗濯ができるのは自分だけだという自負がある。 男にまかせるとロクなものを選ばない。 中年女は考える。
「どんなものにもマグレということがある以上、男もマグレで正しい選択をすることはある。 だが、それは男の人生の中でせいぜい一回しかない。 結婚相手として自分を選んだのが、最初で最後の正しい選択である」と。」

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posted by Fukutake at 09:10| 日記