2023年01月18日

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「孫子」 天野鎮雄(訳・注) 講談社文庫

用間編 一 p240〜
 「孫子は次のように言う。
 およそ、十万という大軍を動員し、自国を出て敵国に進攻すること、千里の遠方に及ぶ時は、国民の供する軍事費と朝廷の負担する軍事費とで、一日千金を費やす。従って、国の内外は騒然となり、民は東奔西走して、はては疲れて道路に怠り、その農業に手のまわらなくなるのが、七十万家に達する。こうして、数年も国を守りながら、僅か一日で国の勝敗がきまる。それにも拘らず、官位・俸給・百金という微々たるものを出しおしんで、間者を用いて敵国の実情を知ろうとしないのは、民に対してまことに思いやりのないことである。そのような者は人々をひきいる将軍でもなければ、また君主を補佐する人でもなく、また勝敗を自由にする人物でもない。

 それ故、聡明な君主と賢良な将軍が、軍を動かせば敵軍に勝ち、その成功が天下のだれよりも抜きんでている、その原因は、敵の実情をあらかじめ知ることにある。敵の実情をあらかじめ知ることは、鬼神に祈って得られるものでもなければ、また亀卜や筮竹の判断によって得られるものでもなく、また日月星辰の運行をためしはかって、それから得られるものでもない。必ず人の報告によって、敵の実情を知ることである。そこで、間者を用いる。」

用間編 三 p246〜
 「それ故、一国の軍事上、間者ほど君主・将軍と親密な者はなく、賞を与えるのに、間者より厚く与えられる者はなく、敵の軍事について、間者よりつまびらかに知っている者はない。

 君主・将軍が、非常にすぐれた智恵を持っていなければ、間者を用いることができない。人をいつくしみ事をよく処理することがないならば、間者を使うことができない。その心の働きが微妙で、人の胸中を見通すのでなければ、間者の報告から真実を見いだすことができない。
 まことにまことに、微細な事にまで、わたっている。間者を用いることは。
 もし、間者の報告に基づくある企画が、まだ実施されない前に、その事が洩れては外部に聞こえたら、それに関係する間者とそれを洩らした者とは、殺される。」

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「間より三軍の事、審(つまびら)かなるは莫し」
posted by Fukutake at 08:14| 日記