2023年01月07日

鳥語の文法

「言葉を持つ鳥、シジュウカラ」 鈴木俊貴*  学士会「NU7」2023.1 No.45 掲載 「関西茶話会」での講演から抜粋(2022.7.9(土))

 「16年以上前から、私は年間6〜8ヶ月を軽井沢の森で過ごしています。 シジュウカラは春夏に子育てをし、秋冬に成長して群を作るので、各時期に彼らがどんな鳴き声で会話しているのか、調査しています。
 私は幼い頃から虫や鳥や動物の観察が好きで、「将来は動物学者になりたい」と思っていました。 大学2年の冬、長野の森でシジュウカラが状況に応じて鳴き声を使い分けていることに気づき、「彼らは会話しているのではないか?」と疑問を抱きました。 それがこの大きなテーマに出会うきっかけでした。

 2005年、私は研究をはじめました。動物の言葉を解明した研究者はいないので、方法から作っていかねばならず、大変でした。 2011年論文を発表しました。「シジュウカラはヘビやタカを示す鳴き声(単語)を持つ」という内容です。 2016年には「シジュウカラは単語を組み合わせて文章を作る能力(文法)がある」と報告しました。

 文法能力とは、言語学者は「初めて聞く文章でも、文法に則れば、正しく理解できる」能力と定義します。
 鳴き声の組み合わせに文法があるのなら、文法にさえ則っていれば、シジュウカラは初めて聞く組み合わせでも意味を理解するはずです。 ただ、これを証明するには、私が大量に持つシジュウカラに鳴き声の録音にはない組み合わせを作り、シジュウカラに聞かせる必要がありました。

 また、シジュウカラは、コガラなどの他の鳥と群を作ることがあります(混群)。混群すれば群が大きくなり、天敵から攻撃されても自分が傷つく確率は減ります。
 観察を続けているうち、両者は鳴き声が全く違うのに、互いに学習して理解し合っていることが分かってきました。 そこで、コガラ語で「集まれ」を意味するディーディーという鳴き声に注目し、シジュウカラの文法に則って、ピーッピ・ヂヂヂヂを、ピーッピ・ディーディーと言い換えてみました。これをシジュウカラに聞かせると、多くが首を振り、スピーカーに接近しました。しかし、ディーディー・ピーッピという語順を逆にして声を聞かせるとスピーカーに接近する個体は激減しました。
 つまり、シジュウカラは文法に則って意味を理解していたのです。

 シジュウカラとコガラの混群の場合、体の大きいシジュウカラが餌台を独占すると、体の小さいコガラは餌を食べられません。 するとコガラはタカがいないのに、ヒヒヒヒ(タカだ!)と嘘鳴きしてシジュウカラを追い払い、餌にありつきます。 

 動物の鳴き声は反射で無意識的と思われてきましたが、動物にも騙す意図など、豊かな思考があるのです。」

鈴木俊貴* 京都大学白眉センター特定助教

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posted by Fukutake at 08:51| 日記