「花間集*」花崎采琰(はなざき さいえん)著 桜楓社 昭和四十六年
韋荘 p40〜
「浣溪沙*(三)
あわれ夢見のして月傾けば 惆脹夢餘山月斜
壁に照る孤燈(ともしび)、窗小暗く 孤燈照壁背窗紗
小樓(にかい)の閣(うてな)は謝娘(あのこ)の家 小樓高閣謝娘家
しのぶ玉容(おもかげ)はいづこか 暗想玉容何所事
春の雪に凍る梅花の一枚 一枝春雪凍梅花
身にしむ香は朝霞こめるさまよ 満身香霧簇朝霞」
浣溪沙(五)
「夜々の相思(こい) 夜々相思更漏殘
心いたみて月の欄干(てすり)にもたれ 傷心明月凭欄干
君しもび我が身思へば 相君思我
さぶき錦衾(ふすま) 錦衾寒
海底に似た晝堂(へや)のわびしさ 咫尺晝堂深似海
思いつめて舊い戀文とりいで看れば 憶来唯把舊書看
「いつの日か手を携(ひ)いて 幾時擕手
長安に歸ろうよ」と 入長安」
菩薩蠻*(五)
「春の洛陽(みやこ)は花ざかり 洛陽城裏春光好
洛陽の才子は他郷(いなか)に老いた 洛陽才子他郷老
柳の暗い魏王堤で 柳暗魏王堤
此の時心は迷いにくれた 此時心轉迷
桃の花ちる春の流れきよらかに 桃花流水
川には鴛鴦(おし)のゆあみするのを 水上鴛鴦浴
じつとみつめて夕陽まで 凝恨對殘暉
君をしのぶとも君は知るまい 憶君君不知」
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花間集* : 中國の唐宋時代の歌謡集。五代西蜀に現れた名流詞人十八人の選集。
浣溪沙*:詞牌の一。詞の形式名。双調 四十二字。
菩薩蠻*:双調。 四十四字。換韻。全ての句が押韻する。