2022年12月09日

占い欄は読むな

「交差点で石蹴り」 群ようこ 新潮文庫 平成十年

占い p242〜

 「若いころ、占いに夢中になった時期があった。雑誌の占い記事はかたっぱしから目を通し、「ふむふむ、今週はこういう運勢なのね」と納得したりした。読んだ直後は、気をつけなければと心に決めたりするのだが、すぐに忘れてしまい、また雑誌の発行日が来てしまうという、その繰り返しであった。複数の雑誌を比べると、正反対のことが書いてあることもあって、「どっちが正しいのかしら」と思ったりもしたが、とにかく内容が何であっても、占いのページを見るのが楽しみだったのである。

『サンデー毎日』で、星占いのページを担当している、メープル・ピンドットさんは私の古い友人で、今は彼女のいうことだけは信用しているが、それ以外の占いは、どうでもいいと思っている。歳をとるにつれて、「なるようにしか、なんないわよ。世のなかなんかさあ。自分の思うとおり生きるしかないわさ」とふてぶてしくなり、「まあ、こんなことが書いてあるわ。どうしましょう」と占いを見て、心が動かされることなどなくなったのである。

 ところがこの間、古い雑誌を整理していたら、占いの広告が目にとまった。それはダイヤルQ2を利用したもので、たくさんの占う項目があった。恋愛に関する内容がほとんどだが、「あなたの前世は何か」といった、若い女性が好きそうなものもある。そのなかでも特に私の目をひいたのは、「あなたは何をするために、この世に生まれてきたのか」という項目である。誰がそんなことを決めるのかは知らないが、私はむしょうにそれが知りたくなり、広告に書いてある、占いの番号をプッシュしたのであった。

 テープの指示に従って、自分のデータをプッシュボタンで入れる。真剣には考えていないものの、だんだんどきどきしてきた。そして「私が何をするために、この世に生まれていたのか」を教えるテープが流れはじめた。私はそれを聞いたとたん、電話口でひっくりかえってしまったのである。
「あなたは、人を笑わせるために生まれてきました」テープはおごそかな声で告げた。「はあ?」あっけにとられていると、テープは、「そんなこと、などといってはいけません。人を笑わせ、楽しくさせることが、あなたに与えられた使命です」というのである。

 うすうすは気づいていたが、やっぱりという気もした。その点においては、この占いは大当たりであったのだ。若い女性がこれを聞いたら、ちょっとショックだと思う。恋愛関係でなく、お笑いに生きろといわれたら、吉本をめざしている人じゃない限り、がっくりするのじゃなかろうか。私は物書きの男性の友人と、「売れなくなったら、偽夫婦漫才をやろうね。そうしたら箪笥のこやしの着物も着られるし」と話したことがある。もしかしたらこの占いのテープは、私のためだけに作られたテープではないかと思ったりしたのであった。」

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たまには当たる。

posted by Fukutake at 07:48| 日記