2022年09月30日

天が下しる

「常山紀談 上巻」 湯浅常山 著 森銑三 校訂 岩波文庫

光秀愛宕山にて連歌の事 p159〜

 「天正十年五月二十八日、光秀愛宕山の西坊にて百韻の連歌しける。

ときは今あめが下しる五月かな     光秀

水上まさる庭のなつ山         西坊
 
花おつるながれの末をせきとめて    紹巴

明智本姓土岐氏なれば、時と土岐を通(かわ)はして、天下を取るの意を含めり。 秀吉既に光秀を討ちて後、連歌を聞き大いに怒りて紹巴を呼び、天が下(した)知るといふ時は天下を奪うの心あらわれたり。 汝しらざるや、と責めらるる。 紹巴、其発句は天が下なると候、と申す。 しからば懐紙を見よ、とて、愛宕山より取り来て見るに、天が下しると書きたり。 紹巴涙を流して、是を見給え。 懐紙を削りて天がしたしると書き換えたる迹分明なり、と申す。 みなげにも書きかえぬ、とて秀吉罪をゆるされけり。 江村鶴松筆把(とり)にてあめが下知ると書きたれども、光秀討たれて後紹巴で秘かにに西坊に心を合わせて、削り又始めのごとくあめが下しると書きたりけり。」

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苦心の改竄

posted by Fukutake at 07:42| 日記