「徒然草」第八十四段
「法顕三蔵*が天竺に渡っていた時、故郷の扇を見ては悲しみ、病の床に臥しては本国の食事をしたいと願われたということを聞いて、「あれほどの高僧たるお方が、ひどく気弱なありさまを、外国くんだりでお見せになるなんて最低だなァ。」と誰かが言った時に、弘融僧都が「やさしくも人間味の豊かな三蔵であることよ。」と言ったのは、杓子定規の法師くさいところがなく、奥ゆかしいく感じられたことである。」
法顕三蔵* 中国東晋の高僧。経・律・論の三蔵に通じた高僧に対する尊称。
(「イラスト古典全訳 徒然草」橋本武 日栄社)
(原文)
「法顕三蔵の、天竺に渡りて、故郷の扇を見ては悲しび、病に臥しては漢の食(じき)を願ひ給ひけれ」と人の言ひしに、弘融僧都、「優に情ある三蔵かな」と言ひたりしこそ、法師のやうにもあらず、心にくく覚えしか。」
(「新訂 徒然草」岩波文庫)
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あはれを知る。