「現代民話考 5」 松谷みよ子 ちくま文庫 2003年
死の知らせ p201〜
「山形県東置賜郡。小佐家の今井五ヱ門さんの貞助さん、夜おそく帰宅して寝ようとしたら、茶の間から上段の方へ白装束した一人の女が行く様子、今頃あまりの不思議さに、妻の名を呼んだら寝床でお父さまかという、また子どもの名を呼んだが、これにも返事があった。そのうち、その白装束の女は上段から窓のところへ行ってかき消えた。そして仏前のキンの音は二度ばかり鳴った。人の気配は上段へ行ったはず、またキンの音、かさねがさねの不思議さにたまらなくなり寝床にもぐり込んだ。すると「今晩は、今晩は」という人の音、起きてみれば親類の某という女の死んだ知らせだった。
東京都練馬区東大泉。昭和五十六年。隣家のおばあちゃんが病気で入院されていた。亡くなる二、三日前、私の家の仏壇のリンが鳴り、「あれっ」と思っていたら、丁度その頃、おばあちゃんが昏睡状態になった時だったようだ。お別れに来たのでしょうか。
滋賀県近江八幡市。昭和三十九年か四十年の七月末頃のこと、母が昼頃、庭の草むしりをしていて、仏壇のリンが鳴ったのを聞いたのです。今頃誰もいないはずと、手を止めわざわざ見に行ったのですが、誰もいなかったそうです。それから四、五日して広島県の尾道にいる父の弟さんが亡くなられた知らせが入りました。やはり魂は親元に帰るというのは本当なんでしょうか。
昭和十六年か十七年のことであるが、夜中にふと気がつくと、ちょうどひもでもつけて戸をひっぱってでもいるように、カラカラッ、カラカラッと音がした。
ふつうの客なら、声をかけガラッと表戸をあけるものだが、その時はまったく違う音だったので、おきてみると、こんどはたたみの上を帯でも引きずってゆくように、スルスルッ、スルスルっという音がした。
はてな、と思った時、奥の仏だんの鉦がカンカンカンと三度鳴ったので、身体中がジョジョっとなった。その時、今来たのはじさまだとわかった。
やがてこんどは、シュルシュルとまた、たたみの上を帯を引きずるような音がしたかと思うと、こんどはスタスタと大急ぎであるく音がきこえ、下の墓の方角にむかって遠のいて行った。その足音は、ぞうりの音ではなくて、ちょうどうちわで地面をあおぐような音だった。
お盆の最中で、畑中岩美のひこばばの弟の畑中八十助じさまが、八十三歳で死ぬ前に岩美宅に寄ったタマシだったという。」
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