2022年02月17日

もう日本は成熟経済

「資本主義の方程式 ー経済停滞と格差拡大の謎を解く」 小野喜康 著 中公新書 2022年

資産選好 p6〜

 「…カネが持つ便利さは、経済が拡大しモノの取引が増えて行くにつれて、ますます増幅していく。その結果、直接的には何の役にも立たないカネの魅力がどんどん膨れあがり、もともとモノに付随していたカネへの欲望がモノから独立して、人々は、何かを買うという具体的な目的を持たなくても、カネの保有そのものに魅力を感じるようになった。このような欲望を資産選好と呼ぼう。

 モノとカネの乖離
 本来、人々の生活はモノによって支えられ、カネはそれを適切に生産し、流通させ、人々の手元に届けるための手段にすぎない。このときカネへの欲望は、モノを手に入れるときの取引手段として便利だから、という流動性選好が基にある。したがってその対象は、取引に使うことのできる貨幣や、クレジットカードの決済のための普通預金などに限られる。
 これに対し資産選好とは、資産を持っていることへの欲望である。そのため、貨幣を含めた金融資産がこの欲望の対象になる。自分の持っているカネ、すなわち金融資産の総額が多ければ、それだけで無条件にうれしい。この欲望はカネを使ってモノを手に入れ、それらを使ったときの味や快適さなどへの直接的な欲望、すなわち消費先行とはまったく異なり、実際には使っていないのに持っているだけでうれしい、というものである。インターネットを見ると、社会の平均的な金融資産保有額はどのくらいか、どのくらいの金融資産やどのくらいの所得があれば富裕層か、などという情報が氾濫している。これを見て自分が保有している資産額と比較し、喜んだり焦ったりする。これは地位選好と呼ばれ、それも資産選好の一つの形態である。

 経済において本質的に重要なのはモノの動きである。カネへの選好が流動性選好(取引の便利さへの選好)だけにとどまっていれば、カネの量も働きもモノの取引を反映するから、カネはモノの価値を正確に反映する鏡となる。そのため、企業経営や個人の消費計画も、それらに影響を与える経済政策もカネの動きを見ながら考えればよい。ところが、資産選好があり、それが消費選好と比べて強くなりすぎると、カネはモノの動きとは独立して膨張する可能性が生まれる。
 特に、資本主義経済が発展してモノが満ち足りてくると、消費選考よりも資産選好が顕著になり、モノよりカネという本末転倒が起きる。その結果、カネの動きがモノの動きと乖離して、カネを媒介として行われるモノの需給調整がうまく働かなくなる。たとえば、カネが増えてもモノへの需要に結びつかな区なれば、需要不足による失業が生まれ、不況になる。また株式や債権などの資産の価値が実体経済の動きから乖離して暴走しはじめれば、バブルが起こる。このような経済の機能不全は、多額の資産を蓄積し、大量消費が可能となった豊かな社会になればなるほど、起こりやすくなる。」

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モノよりカネ: 貯蓄の拡大(資産増大)→消費減退→不況→資産価格の下落(資産階級の没落*バブルの崩壊)→実体経済の大不況
posted by Fukutake at 07:48| 日記