2022年01月06日

部下を見抜く

「韓非子」第一冊 金谷 治 訳注   岩波文庫

揚搉(ようかく)* より 第八 p132〜

 「およそ臣下の意見を聞きとる方法は、臣下が口から出した進言に従って、逆にその実際の業績を調べることである。だから、君主は名目としての進言をよく調べて、それに応じた地位を与え、職分をはっきりして、仕事の種類を区別する。臣下の言葉を聞く方法としては、まるでひどく酒に酔っているようなかたちをとる。唇よ、歯よ、私の方から先に動かしてものを言うことはするまい。歯よ、唇よ、いよいよ暗愚のありさまで黙っていよう。そうすると、臣下の方でかってに意見をはっきりとさせ、こちらはそれによってよくわかる。こうして善い意見も悪い意見もどんどん集まってくるが、君主の方はそれに一々対等の相手はしない。虚心静寂でことさらなことをしないのが、根源としての道のありかたであり、いろいろな物がまじりあってたがいに比べあえるのが、事物のすがたである。

 そこで、いろいろと突き合わせて事物を比べ、たがいにまぜ合わせて虚心の道に合わせ、根本の立場を守って変わることがなければ、君主としての動作にもあやまちがない。動くこと、形づくること、すべてことさらなことをしない無為でいて、万事を治めてゆくのだ。君主が何かを好むと、それにつけこむ事業が多くなり、君主が何かを憎むと、それに応じて怨みことが起こる。だから、君主は好みや憎しみの心をなくして虚心になり、根源の道がそこに宿るようにするのだ。君主が臣下といっしょに仕事をしたりしなければ、民衆は君主を尊重する。君主が臣下といっしょに相談したりしなければ、臣下は独力で行うことになる。

 君主は内なる心のかんぬきをしっかり閉じて、部屋の奥から外庭を見るようにしたなら、臣下のことはわずかな違いまではっきりわかって、すべての人がその落ちつき場所に落ちつくことになる。こうして、賞を与えるべき者には賞を与え、罰をくだすべき者には罰をくだして、臣民はその行ったことにもとづいて、それぞれに自分でその報いを受ける。善には賞、悪には罰の報いが必ずやってくるというのであれば、だれもがお上を信用することになるだろう。規準の法則がしっかりと立ったからには、全体のすがたが隅々まではっきりするのだ。」

揚搉(ようかく)* 君主の心がけの大略
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君主は好悪を言うべからず
posted by Fukutake at 08:27| 日記