2022年01月03日

悪党

「笑う日本史」 伊藤賀一 KADOKAWA 2019年

「悪党」=「ワル」じゃなかった! 生業はフリーランスの運送業者 
p70〜

 「「悪党」と聞くと、邪道や外道、非道なならず者なんかを思い浮かべる人も多いでしょう。おしなべて、マイナスの意味を想像すると思います。

 ですが、そのそも、悪党の”悪”は、現代で使われているような、単に悪いという意味ではなかったんですよ。「秩序外」「強さ」などのニュアンスが強い。「アウトロー」的な感じというか勇ましい響きもある。そもそも善悪なんて、見る方向により変わってきますからね。
 鎌倉時代末期に台頭してきた悪党といえば、主人を持たない武士を指していました。ほとんどの武士は、皇族や貴族、将軍や執権など誰かしらの主人を持ち、仕えています。対して悪党は、朝廷にも鎌倉幕府にも仕えない人間。今でいうフリーランスな立場の人間を「悪党」と呼んでいたんですよ。
 フリーランスに求められる資質は、今も昔も「強さ」です。体力的にはもちろんのこと、気持ちの強さも不可欠。

 悪党が日々の糧を稼ぐ術として定番だったのは、運送業でした。運送業者は、スピードが大事で量をさばく。また、依頼主から預かった大切な荷物を強奪されるわけにはいきませんよね。ですから、必然的に体力だけでなく戦闘力も必要とされました。
 そして当時は、運送業が活躍できる都市といえば、朝廷のある、京、大寺社が集まる奈良、そして幕府のある鎌倉ぐらいのもの。武士が幕府のある鎌倉にいてフリーランスはなかなか難しいので、悪党の存在は、京・奈良を含む畿内に集中していました。

 ちなみに、南北朝時代に後醍醐天皇を支え活躍した南朝方の楠木正成も、元は河内国(現在の大阪府東部)を拠点に運送業を営んでいた悪党です。
 このようにし悪党は、確かに荘園を侵略する人間は多かったとはいえ、必ずしも「悪さ」をしていたというわけではないんです。

 ただ、普通ならいるはずの仕えるべき主人がいない。これは当時の武家社会では、大いに違和感があったのは事実です。」

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posted by Fukutake at 08:15| 日記