2022年01月02日

人間の評価

「漢詩名句 はなしの話」 駒田信二 文春文庫

棺(かん)を蓋(おお)いて事始めて定まる p60〜

 「(大意)
 捨てて顧みられることのない道端の池でも、また、むかし伐り倒されたままの桐の木でも、その一斛(一石)の古い水の中に竜がかくれていることもあるし、また、百年後に琴に作られることもあるのだ。人間の価値は生きているあいだには決まらない。棺桶に蓋をされてから、はじめて真価がわかるのだ。
 さいわいに君はまだ若いのだ。憔悴して山中に暮らしているなんて、惜しいことではないか。
 深山窮谷は君のような若者に居るところではない。雷や魍魎や狂風におそわれるだけだ。そんなところから早く出て来たまえ。

 君不見道邊廃棄池  君見ずや道辺廃棄の池
 君不見前者摧折桐  君見ずや前者摧折の桐
 百年死樹中琴瑟   百年の死樹琴瑟に中(あた)り
 一斛舊水蔵蛟龍   一斛の旧水蛟龍を蔵す
 大夫蓋棺事始定   大夫棺を蓋いて事始めて定まる
 君今幸未成老翁   君今幸に未だ老翁と成らず
 何恨憔悴在山中   何ぞ恨まん憔悴して山中に在るを
 深山窮谷不可處   深山窮谷処(おく)る可からず
 霹靂魍魎兼狂風   霹靂魍魎兼ねて狂風

杜甫(七一二ー七七〇)の「君不見簡蘇徯」(君不見、蘇徯に簡する)と題する楽府。(蘇徯は杜甫の友人の子。簡は手紙。)」

「君見ずや」と歌うのは楽府の一つの形である。 (「君不見ずや黄河の水天上より来たるを」や「君不聞かずや胡笳(ふえ)の声最も悲しきを」など。) 
 
---


posted by Fukutake at 07:55| 日記