2021年10月14日

下戸と大酒飲み

「「私が、答えます」ー動物行動学でギモン解決!」 竹内久美子 文藝春秋

酒とタバコと出世の関係 p50〜

 「(質問)酒もタバコもやらない人は出世しない、とは老親の口癖です。私はどちらもたしなみませんが、本当に酒もタバコもやらない男は出世しないのでしょうか。(三九歳、男)

「(答え)まず酒についてですが、そもそも飲むかどうか、という前に、飲めるかどうか、の問題がありますね。日本人の中には時々、酒をほとんど一滴も飲めない、下戸の人がいます。さらに、飲めることは飲めるが、ある量(たとえば日本酒で言えば二〜三合)を超えると気持ち悪くなる(私はこれです)、そしてぐいぐいいける、気持ち悪くなるのは相当飲んでから(たとえば五合〜一升、あるいはもっと)である、と大体三段階くらいの強さがあるように思われます。
 ところがコーカソイドや二グロには下戸はまったくいない。我々のように、中間段階というのもない。彼らは全員、酒は極めていける口、実際に飲むかどうかは別として、酒には滅法強いのです。
 なぜ、モンゴロイドには下戸や中間段階がいるのか。それは今から二万年くらい前を寒さにピークとする最後の氷河期の頃です。当時、中国大陸のどこかに住んでいた誰かに、ある突然変異が起きたことに始まります。

 アルコール(エチルアルコール)は体内で、アセトアルデヒド、酢酸という順番で変化します。このアセトアルデヒドを酢酸に変える酵素をアルデヒドデヒドロゲナーゼと言います。この酵素には二種類あるのですが、突然変異は、より重要な酵素をコードしている遺伝子に起きました。結果、肝心の酵素が正しくつくられなくなった。アセトアルデヒドを、効率よく酢酸に変えることができなくなってしまったのです。
 このアセトアルデヒド。実は、二日酔いや飲みすぎたときの気持ち悪さの原因で、一種の毒物です。下戸の人は、酒を飲めば、必ずアセトアルデヒドが溜まる(その先の酢酸に変わりにくいわけだから)。よって二日酔いみたいに気持ち悪くなるのです。
 一方、酒が飲める人でも、飲み過ぎれば、この過程は渋滞。一時的に多くのアセトアルデヒドが溜まる。やはり気持ち悪くなる、という次第です。この突然変異の起きた状態の遺伝子は「下戸遺伝子」と呼ばれています。
 とはいえ、下戸遺伝子を、親から一つしか受け継いでいないのなら、まだ大丈夫。下戸ではありません。そうでない方の遺伝子が働いてアセトアルデヒドを変化させます(これが酒の強さの中間段階)。下戸遺伝子を親から一つずつ、計二つ受け継いでしまった場合、これが下戸なのです。 
 ともあれこの突然変異が起きて以来、それまで全員、極めていける口だったモンゴロイドが、突如そうではなくなってしまいました。…
 二万年以前、南方から島づたいに日本列島にやってきた縄文人は全員、いける口だったが、後から(BC三世紀からAD七世紀にかけて)、主に朝鮮半島経由でやってきた渡来人が、下戸遺伝子をもたらした。よって今日、日本人に、酒の強さについて様々な個人差があるわけです。」

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高知、鹿児島、熊本など大酒のみが多いのは、縄文系ということでしょうか。
まあ、明治期には、質問のようなこともあったのかも知れませんね。
posted by Fukutake at 08:04| 日記