2021年10月11日

政は誠なり

「中国の思想 第11巻 左伝」 徳間書房

鄭の子産の政治 p276〜

 「鄭の国では、人々が学校に集まって政治談義をたたかわす習慣があった。
 然明(名は蔑)という役人が上卿の子産に、この風潮を絶つため学校を廃止すべきであると進言した。すると子産は、「いや、そんな必要はない。かれらは朝夕の仕事を終えてから(当時は朝と夕と二回出勤制)学校に集まって、われわれの政治を批判している。わたしはかれらの意見を参考にし、評判のよい政策はどしどし実行し、評判の悪い政策は改めるように心掛けている。かれらは、いわばわたしの恩師なのだ。学校廃止などとんでもない。

“誠実でさえあれば、人の怨みを買うことはない”という言葉がある。弾圧によって人の怨みを防ぐことはできないのだ。むろん弾圧によってかれらの言論を無理やり封じることはできよう。しかしそれは川の流れをせき止めるようなものだ。やがて水は堰を切ってあふれ出し、大洪水となり、数えきれぬ死傷者を出すにちがいない。こうなったら手のほどこしようがなくなる。それよりは、少しずつ放水して水路に導くに越したことはない。人民の言論もこれとおなじこと、弾圧するより、聞くべきは聞いて、こちらの薬にした方がよいのだ。」

 然明は感服したおももちで、
「いまにしてわかりました。あなたこそ真の政治家と呼ぶにふさわしいお方です。目が醒めた思いです。いまのお考えが実行されたとしたら、あなたは二人や三人の臣下だけでなく、全人民の信頼を得ることができましょう」
 のちに孔子は、子産の言葉を伝え聞いて言った。
「この言葉を聞いた以上、誰が子産のことを不仁と評しても、わたしはそれを信じない」」

(子産は孔子に深い影響をあたえた。『史記』によれば、孔子は鄭を訪れたとき、子産と兄弟のように交わったという。『論語』の中でも、孔子は三たび子産を評して、つねに絶賛を惜しまず、「恵人」といっている。)

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posted by Fukutake at 08:44| 日記