2021年07月30日

病の時の歌

「味わい深き 病の歌」 松村由利子 「考える人」季刊誌 2016年冬号より

p56〜

 「無理すればかならず腫れる扁桃腺その先の無理をすることのあり

風邪の引き始めは変にかなしくて古い雑誌を眺め過ごす

微熱でも寝かせてくれる君に甘え素麺ゆでる音を聞いてる

かならず治る病気だからと繰り返し誰もが言へば治らぬような

たんたらたらたんたらたらと雨滴(あまだれ)が痛むあたまにひびくかなしさ(石川啄木)

リウマチは尋常ならぬ痛みにてをりをりわれを尊大にする

透析の夫に付き添ひ読む文庫イワン・カラマーゾフの長広舌終はらず

失ひしわれの乳房に似し丘あり冬は枯れたる花が飾らむ

ひと息にビール飲み干す夢を見き術後一年胃のなきわれは

失くしたる文語文法ふたたびを暗記してゆく夕べかななかな

一世紀すぎて人類(ひと)は筋ジスを治せぬ月まで出掛けし力

おつとせい氷に眠るさいはひを我も今知るおもしろきかな

ふとんの上でおおかゆすするあと何度なおる病にかかれるだろう」

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病が与えてくれた贈りものか。
posted by Fukutake at 08:14| 日記