2021年06月28日

新聞の不都合ワード

「雀の猫まくら」 群ようこ 新潮文庫 平成十年

p218〜

 「漫画家の石ノ森章太郎氏逝去。私は子供のときに、彼が書いた「マンガ家入門」という本を買い、トレージングペーパーで、「龍神沼」の絵などを写しとったものだった。漫画家は作家よりも、もっとハードな仕事なのだろう。「消えたマンガ家」を読んでも、漫画家は一発大当たりすれば、一攫千金も夢ではないが、それによって失うものがとても多い職業のようだ。ある人は生命を失い、ある人は平常心を失う。作家よりも若い年代でデビューしたり、出版社のかかえこみ作戦にも、要因があるのかもしれない。
 母親が新築した家に引っ越すときに、うさぎと鳥をどうやって運ぶかを電話で相談する。電車では運べないので、ペットショップのお姉さんと相談した結果、業者のトラックに乗せてもらうという。
「それで大丈夫なのかしら」と私は心配になる。
 近所の書店に本を頼んでいて、今日あたり届くはずなのだが、行ってみたら注文してなかったと間抜けなことをいう。とにかくすぐ注文しなおしてくれるようにと頼んだら、折り返し電話があり、実は注文済みで、少しこちらに届くのが遅れるだけだという。わけがわからない。
「とにかく本が届いたら連絡して下さい」といって帰ってくる。
 またN新聞でのチェックが入り、あまりわけのわからない理由なので、「もう何があろうとやめるので、上司にそういっておいて下さい」と担当者にいう。私が知りたいのは、いったい誰がそういう下らない言葉のチェックをしているかということだ。担当者に聞くと、「名前も顔もわからない誰か」だという。あまりにばかばかしすぎて話にならない。彼は「正直いって、これから続けていただいても、ご迷惑をおかけすると思うので」といっていた。K社に電話をし、これまでのいきさつを全部話して、「連載はやめます」と報告する。K社の人も呆れ返り、怒っていた。新聞社は文字を扱っていながら、私の感覚とは全く違う媒体で、私には理解できない。昨年、新聞小説の連載をやったが、小説でも言葉のチェックがあった。「出戻り」もいけないのだ。N新聞では濃厚なラブシーンが出てくる小説などを連載しているのに、なんて「おばさん」や「面接官のおやじ」や「頭の悪そうなおねえちゃん」がいけないのかわからない。絶対に新聞の仕事はやらないことにする。頼むときは口先でいいことばかりいって、結局はすぐに保身にまわろうとするから、N新聞の連載をやめると決まったとたん、とっても気分が明るくなり、他の原稿をじゃんじゃん書く。」

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posted by Fukutake at 11:09| 日記