「噴飯 惡魔の辭典」 安野光雅、なだいなだ、日高敏隆、別所実、横田順彌
平凡社 一九八六年
「嘘(うそ)」p28〜
「真実」の対語だが、「これは真実だ」と断言することはうその一種である。(日高)
最初に、やや声を落とした「これは本当のことだけどね」という言葉から開始される総ての話と、最後にやや声を落とした「これは本当のことだよ」という言葉で締めくくられる総ての話。そして、最初にも最後にも、「本当だよ」という証明のつかない、総ての話。「本当だよ」。(別所)
アマゾンの奥地に、全身がまっ黒な色をした珍しいウソがいると伝え聞いた鳥類学者が調査にいってみたら、それは実はまっ赤な嘘だった、という話は、もちろん嘘だ。(横田)
覇者の常識、弱者の知恵。言葉や文章の中に、先天的に宿る欠陥。別の嘘がとってかわるまでの真実。
嘘と真実とが、実は同質の美徳であると思いいたることができず、人間のくせに嘘発見器を発明した者がある。もしそれがほんとうに機能したら、一番喜ぶのは悪魔である。(安野)
「そのうそ、ほんと」という言葉が、日本に流行したことがあった。知ってる知ってるという人があれば、その人のとしがわかる。しかし、こんな微妙な表現のできる若い女性は、今やどこをさがしてもいない。「ウソー!ホントニ?ホントニ?ウソー!ウソー!ホント?」こういう返事しかしてくれぬ。ある国立大学の教授に「どうしてこんなことに」と質問されたので、言下に「共通一次試験などのせいです。ウソ、ホント、と答える訓練を、あなたがたが、十何年も続けさせた結果です」といいきった。するとその教授、大声で叫んだ。「ウソー!」もう、なにをかいわんや、だ。(なだ)」
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