2021年04月12日

キョウダイ殺し

「遺伝子が解く! 美人の体」 竹内久美子 文春文庫 2011年

p288〜

 「イヌワシの利己的な死

 問い:イヌワシは、たいてい卵を二つ産むとか。そのふ化するとき、先にかえったヒナの方が後の方のヒナをクチバシで突いていじめて、殺してしまうとのこと。しかも親は知らん顔をしてるとか。イヌワシは最初から一羽しか育てる気がないのですか?

 答え:イヌワシに限らず、キョウダイ殺しは大型のワシによく見られます。イヌワシは他のワシ、タカの類と同様、一夫一妻の鳥。繁殖に失敗すると次の年に相手を変えることもありますが、普通、生涯にわたり同じ相手とつがう。
 巣は南向きの断崖の岩棚に、枯枝などを積み重ねて作り、卵はたいてい二個…。しかも二卵目を一卵目の三〜五日後とずらして産み、抱卵は二卵目を産み終えてから始めるのではなく、産んだそばからする。
 ということは、一卵目が先にふ化し、その三〜五日後に二卵目がふ化する。その二卵目がふ化した際、最初にふ化したヒナは既に数日間エサをもらっているので二羽のヒナには体格の違いがある。ここがポイントです。
 体の大きい兄(姉)は、体が小さく、力の弱い弟(妹)をいじめ、突き回して、ついには衰弱死させます。親は見て見ぬふりで、死んだ子を食べることもしばしばです。
 実は、親は普通二羽育てるつもりはないし、二羽とも立派に育つのはそもそも、無理な環境にあるのです。
 じゃあ、なぜわざわざ二卵産んで、一羽目に二羽目を殺させたりするのか?
そもそも一個しか産まないなんて、あまりにも無謀。その個体がふ化しなかったり、ふ化しても死んだら終わり。そこで二個産んで、一羽目は丈夫そうなら二羽目を無きものにする。その大丈夫さ加減を、弟(妹)を殺せるかどうかによって確かめているわけです。

 もちろん上の子が下の子をいじめるのを阻止するなどし、二羽とも育てようとする道がないこともない。でも、どうしてもエサが不足し、二羽とも死んでしまうという最悪の事態に陥ることもあるでしょう。
 いや、仮に二羽とも育つとしてもです。両方ともが十分に体を発達させることは難しい。将来の繁殖における競争で勝てる見込みは少ない(特にイヌワシ界では)。

 そうすると結局、二羽目は一羽目に攻撃され、早々に死んだ方が、(自身が)生き延びるよりもむしろ自分の遺伝子をよく残すことができるという、一見不思議な論理に到達します。
 つまり、キョウダイによって間接的に自分の遺伝子を残してもらう。遺伝子という点に立てば、その死は「利己的な」ことなのです。」

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遺伝子が残れば死んでも可なり。

posted by Fukutake at 08:14| 日記