2020年12月23日

夢の星座旅行

「銀河鉄道の夜」 宮沢賢治 角川文庫

五 天気輪(てんきりん)の柱 より p165〜
 「牧場のうしろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上には、北の大熊星の下に、ぼんやりふだんよりも低く連なって見えました。
 ジョバンニは、もう露のふりかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼって行きました。まっくらな草や、いろいろな形に見えるやぶのしげみの間を、その小さなみちが、一すじ白く星あかりに照らしだされてあったのです。草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、ある葉は青くすかし出され、ジョバンニは、さっきみんなの持って行った烏瓜のあかりのようだと思いました。
そのまっ黒な、松や楢の林を越えると、俄かにがらんと空がひらけて、天の川がしらしらと南から北へ亘っているのが見え、また頂きの、天気輪の柱も見わけられたのでした。つりがねそうか野ぎくかの花が、そこいらいちめんに、夢の中からでも薫りだしたというように咲き、鳥が一疋、丘の上を鳴き続けながら通って行きました。
 ジョバンニは、頂の天気輪の柱の下に来て、どかどかするからだを、つめたい草に投げました。
 野の灯は、暗の中をまるで海の底のお宮のけしきのようにともり、子供らの歌う声や口笛、きれぎれの叫び声もかすかに聞こえて来るのでした。風が遠くで鳴り、丘の草もしずかによそぎ、ジョバンニの汗でぬれたシャツもつめたく冷やされました。ジョバンニは町のはずれから遠く黒くひろがった野原を見わたしました。
 それから汽車の音が聞こえてきました。その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、その中にはたくさんの旅人が、苹果(りんご)を剥いたり、わらったり、いろいろな風にしていると考えますと、ジョバンニは、もう何とも云えずかなしくなって、また眼をそらに挙げました。

 あああの白い空の帯がみんな星だというぞ。

 ところがいくら見ていても、そのそらはひる先生の云ったような、がらんとした冷たいとこだと思われませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、そこは小さな林や牧場やらある野原のように考えられて仕方なかったのです。そしてジョバンニは青い琴の星が、三つにも四つにもなって、チラチラ瞬き、脚が何べんも出たり引っ込んだりして、とうとう蕈(きのこ)のように長く延びるのを見ました。またすぐ眼の下のまちまでがやっぱりぼんやりとしたたくさんの星の集りか一つの大きなけむりかのように見えるように思えました。」

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そうして、銀河鉄道の夢の旅にでるのであった。
posted by Fukutake at 12:30| 日記