2019年11月27日

人とのつながり

「レナードの朝 (Awakenings)」オリバー・サックス 春日晶子訳 
 ハヤカワ文庫 2000年
(その1)

人間的つながり

 p250〜
 「本書の米国での初版で、私はロランド・Pについて、後書きに次のように書いた。「一九七三年の初め、ロランド・Pはやせ衰えて死んだ。フランク・Gや他の患者同様、検死では死因はわからなかった。こうした患者たちは、希望を失い絶望したことで死んだのだ、と私は考えずにはいられなかった。表に現れた死因(突然の心拍停止でもなんでも)は、本人が求めていた最後のとどめの手段でしかなかったのだ」このあいまいな後書きについて、もっと詳しく説明することが、必要であるとともに適切だろうと考えた次第である。

 ロランド・Pの母親は驚くほど理解があり、息子に誠心誠意尽くしていた。幼少時に、知能に問題があるとか狂っていると決めつけられた彼をいつも守ったのがこの母親だった。…ところが一九七二年の夏に関節炎が悪化し、息子に会いに来られなくなってしまった。母親が姿を見せなくなると、ロランドはひどく動揺した。二ヶ月の間嘆き続け、衰弱し、落ち込み、怒り、体重も二〇ポンド減ってしまった。だが、幸運なことに病院スタッフの一人であるある女性の理学療法士のおかげで、彼の喪失感はやわらいだ。この女性は職業的な技術と暖かく愛情深い性格を兼ね備えていたので、一九七二年の九月には、ロランドは彼女と親しくなり、以前は母親にそうしてきたように彼女を頼るようになった。…彼が必要とする愛情を与えたのだった。その優しさのおかげで、彼の心の傷は癒されたかにみえた。
 不運なことに、一九七三年の二月初め、ロランドの愛する理学療法士は(病院のほぼ三分の一のスタッフとともに)解雇されてしまった。それを聞いたロランドはひどくショックを受け、事実を否定して信じようとはしなかった。でもこのとき彼は意識と理性の世界では喪失を乗り越えて「それでも」生きていく決意をしたようにみえた。だが、もっと深いところでは、二度と乗り越えられない心の傷を負ったのだと考えられる。
 二月の中旬には、ロランドは悲嘆と落胆、恐怖、怒りが入りくんだ重い精神衰弱をみせた。愛情の対象を思い焦がれ、彼女を探し続け、悲しみと心のおたみに繰り返し打ちのめされた。悲しみと思慕、そして彼女に恋い焦がれる気持ちと同時に、自分は裏切られたのだという激情にも駆られていた。…
 二月の末近くなると、ロランドの様子は再び変わり、会話することもほとんどできない、死体にも似た無感覚の状態になった。ロランドは食欲を失い、食べることをやめてしまった。希望も失望も表さなくなった。夜は眠ることもなく、よどんだ目を大きく開いたまま横たわっていた。
 彼が口にした最後の言葉は、「放っておいてくれ!おれが悲しくて死にかけているのがわからないのか?頼むから静かに死なせてくれ!」その四日後ロランドは眠っている間に死んだ。」


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孤独感による死
posted by Fukutake at 09:12| 日記