2018年06月21日

無限の未来

「宇宙の始まる前には何があったのか?」
 ローレンス・クラウス 著  青木薫 訳 文藝春秋 2013年

254p〜

 「もしもわれわれの住むこの宇宙のエネルギーが、無すなわち真空のエネルギーに支配されているなら、たしかにそんな陰鬱な未来になりそうだ。天は冷え切って、暗黒で空っぽの世界になるだろう。しかしじつは、見通しはいっそう暗い。空っぽの空間のエネルギーに支配された宇宙は、生命の未来にとっては最悪なのである。そのような宇宙では、いかなる文明もエネルギーが枯渇して、いずれは消滅せざるをえない。考えることもできないほど長い時間が経った後、何らかの量子ゆらぎ、または何らかの熱的ゆらぎによって、ふたたび生命が進化して繁栄するような、小さな領域が生じることもあるかもしれない。しかしそれもまた儚いものになるだろう。未来の宇宙は、果てしない謎をとくための手がかりを、何ひとつ含まないものになるだろう。
 宇宙の始まりに目を向けて、われわれを構成する物質が、時間の始まりのときに起こった何らかの量子的プロセスで生じたなら、それもいずれ消滅するのはほぼ確実だ。物理学は双方向に通行できる道であり。始まりと終わりはつながっている。はるかな未来に陽子と中性子は崩壊し、物質は消滅し、宇宙は最大限に単純で、対称性の高い状態に近くだろう。
 数学的には美しいのかもしれないが、そこには何の実質がない。エフェソスのヘラクレイトスは、これとは少し違う文脈で次のように述べた。「『神々と人間が争いをやめさえしたら!』とホメロスは言ったが、それは大きな間違いである。もしもその言葉どおりになったとしたら、万物は消滅するに違いない」。クリストファー・ヒチンスはそれを言い換えて、こう述べた。「涅槃は無である」

 いずれ宇宙は無に帰するというこの宇宙像は、もしかするともっとも極端なものになるかもしれない。ひも理論家の中には、複雑な数学的理論にもとづいて、われわれの宇宙のように、空っぽの空間に正のエネルギーが含まれている宇宙は、安定ではありえないと主張する者もいる。いずれ空間は崩壊して、真空のエネルギーが負であるような状態に落ち着くというのだ。そのときわれわれの宇宙は一点にまで縮み、始まったときのような、ぼんやりとした量子的な状態に戻るだろう。もしその議論が正しければ、われわれの宇宙は突然に消滅するだろう。
 この場合、「なぜ何もないのではなく、何かが存在するのか」という問いに対する答えは、「存在するとはいっても、長くはない」ということになるだろう。」


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posted by Fukutake at 12:49| 日記