2017年11月08日

マルティニーク諸島でのラフカディオ・ハーン

「マティニーク熱帯紀行」 工藤 美代子 恒文社 1995年

ラフカディオ・ハーンの熱帯幻想をたどる

170p〜

 「不吉なハーンの夢は、現実の予兆であった。次の章は、「…きのうの朝早く、イゾールは石灰をしこたまかけられて運ばれて行った」という衝撃的な文章で始まっている。三人の子供を残したまま、亡くなったのである。
 坂道の途中で、肩を寄せあうように暮らす貧しい人びとは、悲惨な境遇にもかかわらず、どこか現実から遊離した仮面のようにも映る。だから「死」さえも、豊かに美しい大自然の中では、崇高な響きがある。
 だが、「天然痘」の最後は、突然、仮面をかなぐり捨てるような凄味のある現実が描かれている。
 イゾールの三人の子供たちを引き取ったのは、ハーンの親切な隣人であるマム・ロベールだった。
 やがてイゾールの所持品を競売に付すための太鼓が広場から響いてくる。母親が死んだことを知らない三人の子供たちは、謝肉祭の行列が始まったのだと思う。
 三人の子供は太鼓に胸をとどろかす。謝肉祭の日にみた光景が、−−あの気違いじみた踊りの大行列の愉快さが、子供ごころに生ま生まと、太鼓の音に結びついている。「見に行こうや!」口々に呼びあいながら、三人とも日のかんかん照っている往来へ駆けて行って、町の上下を見渡す。しかし、モルン・ミライル通りはひっそりかんとしている。街には人っ子ひとりいない。(平井呈一訳)
 そこへ疲れた様子のマム・ロベールが帰って来る。子供たちのために、何か競売で落としてやりたいと思ったのだが、高すぎて手がでなかった。そんなこととは知らない子供の一人が、大声で尋ねる。
 「おばちゃん、お面をかぶった人、どこへ行った?」」

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posted by Fukutake at 15:38| 日記