2017年10月02日

本当の利益

「ロゴスとイデア」(2)田中美知太郎 文藝春秋ライブラリー 
2014年

220p〜
自己の利益は本当に自己にとって良いことか?

 「われわれの行為というものは、ソクラテスによれば、われわれが内心その方がよいと思ったことの行為なのである。その点、われわれは常にしたいと思うことをしているのである。極端に言えば、われわれの行為は一応心からの行為なのである。無論、やむを得ないいろいろの強制によって、われわれが心にもない行為をしなければならぬことは明らかな事実である。しかしながら、その場合においても、われわれは心にもない行為を肯定しているのであって、自殺や反抗をその代わりに選ぼうとはしていないのである。

 …しかしながら、そのような場合、われわれがその方をよいと思って行ったことは、果して皆すべて本当によいことであったろうか。トラッシュマコスは、法律がすべて支配階級の利益のために制定されたものであることを主張したのであるが、しかしその場合、権力者はたとい自己の欲するところを自由に行い得たとしても、果して真に自己の利益となるものを法律に制定し得たかどうかは甚だ疑問である。けだし真の利益が何であるかの認識は極めて困難であって、世上一般の権力者が容易にこれをなし得るものではないからである。そして同様のことは、一身のためではなく、国家のために行動していると信ずる人たちにも当てはまるのであって、何が本当に国家のためであるかは、まことに慎重熟慮を要する問題であって、責任ある政治家が日夜そのために心を苦しめていることなのである。もしこの点において誤謬を犯すならば、ひとは国家のためと思って、かえって国家のためにならぬことを計り、いわゆる愛国の至情がかえって国家を危うくすることともなるのである。そしてこのような危険は、国家のためにはたらくことを一種の職業としているような者どもにおいて特に警戒されねばならぬ。なぜなら、自己の職業的利害に過ぎないものを国家的利害のごとくに錯覚する場合が少なくないからである。…」

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このような鋭い指摘が紀元前四百年前になされていた!
posted by Fukutake at 11:50| 日記