2022年09月04日

江戸の笑い

「ユーモアと笑いの至福」 松枝到=編 (東洋文庫ふしぎの国) 平凡社 1989年

 「鈍副子(どんふうす)
 小僧が、夜更けに長い棹を持ち、庭の中をあちらこちら振り廻している。 坊主がこれを見付け「何をやっているのだ」とたずねた。 「空の星が
ほしくて、打落そうとするが落ちない」。 「さてもさても鈍な奴だ。 そのように工夫がなくてどうすものか。 そこからでは棹がとどくまい。 屋根へあがれ。 (『醒睡笑』) 

  辞世
 盗人をとらえ殺さんとする時
盗人「暫く待てたべ、辞世の歌をよみたひ」という
「ソレハ奇特な事じゃ、サアよめ」といふたれば
「かかるときさこそ命の惜しからめ 兼ねてなき身と思ひひらずば」
皆人聞いて「ソレハ太田道灌の歌じゃが」
盗人「アイこれが一生の盗納めでござります。(『江戸小咄集』)

  はつめい
 「アヒおとっさん、京の御ぢい様から手紙が参りました」
「ヲヲどれどれ、坊や、なんと天とうさまが近かろうか、また京の御ぢい様の方が近かろふか」
「アヒ京が近ふ御座ります」
「ナゼ」
「京からは御手紙が来ましたが、天とう様からは、どっこへもお使いが来ませぬ」
又あくる日
「坊や今日は天とう様が近いか、京が近いか」
「アヒ天とう様がちかい」
「ナゼ」
「京はここからは見へぬが、天とう様は見へる」(『江戸小咄集』)

   忠度(ただの李)
  或男酒をかって棚にあげ置き、八ツ時分に呑もふと楽しみ、外へ出、八ツ時分にかへりて、彼徳利を出し盃へついでみれば、酒は一雫も出ず、短冊がひらひらと出た。 よみてみれば、
   ささ浪や志賀の都はあれにしを 昔をながらの山ざくら哉
「ハハアのみ人しらずじゃな」(『江戸小咄集』)」

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posted by Fukutake at 07:22| 日記

江戸の笑い

「ユーモアと笑いの至福」 松枝到=編 (東洋文庫ふしぎの国) 平凡社 1989年

 「鈍副子(どんふうす)
 小僧が、夜更けに長い棹を持ち、庭の中をあちらこちら振り廻している。 坊主がこれを見付け「何をやっているのだ」とたずねた。 「空の星が
ほしくて、打落そうとするが落ちない」。 「さてもさても鈍な奴だ。 そのように工夫がなくてどうすものか。 そこからでは棹がとどくまい。 屋根へあがれ。 (『醒睡笑』) 

  辞世
 盗人をとらえ殺さんとする時
盗人「暫く待てたべ、辞世の歌をよみたひ」という
「ソレハ奇特な事じゃ、サアよめ」といふたれば
「かかるときさこそ命の惜しからめ 兼ねてなき身と思ひひらずば」
皆人聞いて「ソレハ太田道灌の歌じゃが」
盗人「アイこれが一生の盗納めでござります。(『江戸小咄集』)

  はつめい
 「アヒおとっさん、京の御ぢい様から手紙が参りました」
「ヲヲどれどれ、坊や、なんと天とうさまが近かろうか、また京の御ぢい様の方が近かろふか」
「アヒ京が近ふ御座ります」
「ナゼ」
「京からは御手紙が来ましたが、天とう様からは、どっこへもお使いが来ませぬ」
又あくる日
「坊や今日は天とう様が近いか、京が近いか」
「アヒ天とう様がちかい」
「ナゼ」
「京はここからは見へぬが、天とう様は見へる」(『江戸小咄集』)

   忠度(ただの李)
  或男酒をかって棚にあげ置き、八ツ時分に呑もふと楽しみ、外へ出、八ツ時分にかへりて、彼徳利を出し盃へついでみれば、酒は一雫も出ず、短冊がひらひらと出た。 よみてみれば、
   ささ浪や志賀の都はあれにしを 昔をながらの山ざくら哉
「ハハアのみ人しらずじゃな」(『江戸小咄集』)」

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posted by Fukutake at 07:22| 日記

アメリカの大統領

「諸国尽くし」 荒俣宏=編 (東洋文庫 ふしぎの国) 平凡社 1989年

アメ彦 ー大統領はただの人ー p12〜

 「ボルチモアに着いて一週間ぐらいすると、私の保護者は仕事のためにワシントンへ行かねばならなくなり、私も連れて行ってくれた。 ワシントンについた翌日、サンダース氏は「国家の首長」(大統領)をたずねていくつもりだと語った。何のことだか、私には全然わからなかった。彼は二頭立ての馬車を雇い、これに乗ってペンシルヴァニア通りに行った。 鉄柵のあるところへ来た。そこには大理石造りの広壮な二階建ての家がある。そこで紳士は降り、ドアのほうに上がってゆく。 私もついて行った。 ベルを鳴らして、出て来た男にカードを渡した。 二、三分でもどってくると「どうぞお上がりください」と言った。

 そこで私たちは上がってゆき、大広間をぬけて、奥の大きい部屋にはいっていった。私には、紳士が一人、すわって書きものをしているのが見えただけであった。質素な黒服を着ていて、外見は三十八歳か四十歳ぐらい、色白く、やせて、中ぐらいの背たけ、おだやかな風采で、顔つきや態度も、見るからに好ましい人物であった。

 このとき、私はこう考えていたのだ。ー紳士がこの男を「国家の首長」だというが、いったいどういうことなのだろう。 確かに家が大きくて、大理石でできていて鉄の柵もあるが、壮麗な門がまえもないし、護衛の兵隊もいない、外には警備の人すらもいない。そのうえ、私の紳士が着ているのと同じ、質素な黒服だ。 それでも紳士は、この人を国家の最高の人だと言う。 いったいどういうことなんだー。

 帰りに車に乗り込んでから、もう一度私は、いま話していたのはどういう人だか聞いてみた。紳士はふたたび、国の全官吏の首長で、国家の最高支配者だと言った。 彼はプレジデントと呼ばれ、日本の皇帝にあたる人だと言った。 ここまで聞いても、私はまだ信じられなかった。 アメリカ合衆国のような偉大な国の主人が、壮麗さも威厳もなく、いや警備の者も従者もいないで、あんな簡素な生活をしているはずがないではないか。 私の国では、どんな小さな地方の役人でも、お供がないことはないし、ものものしい儀礼をつくさずには近よることもできない。 まして大名や皇帝ときた日にはー。 それでもいま会ったその人が、この偉大なるアメリカの最高の支配者なのか。 まったく信じられない。

(『アメリカ彦蔵自伝』)

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posted by Fukutake at 07:18| 日記