2022年08月03日

不景気下の地価上昇

「資本主義の方程式 ー経済停滞と格差拡大の謎を解く」 小野善康 著 中公新書 2022年

デフレ下の資産高騰 p62〜

 「成熟経済ではカネが資産の蓄積ばかりに回り、消費や生産は伸びないまま、資産価値だけが膨張しつづけることになる。
 はじめに、貨幣についてこの現象を考えてみる。生産能力が伸びても消費意欲が伸びなければ、総需要不足が慢性化して物価の継続的下落(デフレ)が続き、貨幣価値はどんどん膨張しつづける。それでも貨幣の信用が維持され、貨幣が人々の資産選好を満足させている限り、人々は購買力を消費に回さず貨幣を持ちつづける。これがデフレ(不況)であり、貨幣のバブルである。

 資産価値の継続的膨張は株式でも起こる。株価が高騰しても、企業活動や需要環境が変わらなければ、企業収益も変わらない。株価が企業収益だけを背景にしているなら、その値は止まっているはずだが、資産選好を背景にしていれば、貨幣の場合と同様に、膨張しつづけることができる。そのため、一株当たりの企業収益を株価で割った株価収益率はどんどん低下し、株主の収益の源泉は最終的に株価の上昇だけになる。そのとき、デフレ下の株価高騰は、資産選好によって(のみ)支えられるようになる。

 最近二〇〜三十年間の日本経済では、このような金融経済と実体経済の乖離が典型的に現れている。実際一九九〇年代になって始まった消費の低迷と、貨幣や株式、国債などの家計純金融資産の大幅な拡大が見られる。

 この傾向は、二〇一二年末に発足した安倍晋三政権下では、特に顕著であった。日銀は異次元金融緩和を続け、歴史上かつてないようなペースで貨幣発行量が増大するとともに、財政赤字が拡大して、国債残高も世界最悪の水準に達した。これについて政府や日銀は、当初二年もたてば需要も回復しデフレも脱却できると言っていたが、実際には、九年たっても消費もGDPも一向に回復していない。その間、消費は低迷していたが株価が上がったから、政府・日銀は、しばらくすれば消費やGDPも回復してくるとたびたび主張し、景気対策は成功しつつあると豪語していた。しかし、金融経済と実体経済の乖離は成熟経済の典型的な不況現象であり、金融が拡大しても、実体経済はまったく回復していない。

 このように、人々が資産を持っていながら使わずに保持するということが、資産価格の継続的高騰を支える必須条件となる。もし資産選好そのものがなかったり、資産の価値への信用が失われて資産選好を満たさなくなったりすれば、それを背景として高騰していた資産価値は本当のバブルとなり、資産自体が消滅してしまう。」

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恐慌は来る!
posted by Fukutake at 07:42| 日記

竜の言い伝え

「妖異博物館」 柴田宵曲 ちくま文庫 2005年

竜 p84〜

 「雲中の竜は姿が捉えにくい。地上に現れた竜の話を少し拾って見る。

 「蕉斎筆記(しょうさいひっき)」にあるのは姫路の話で、土用干しをしたところ、夕立の来そうなけはいになって来た。干したものは皆取り入れたが、屋敷裏の畠の方に、赤くひらめくものが見える。あまり急ぎ過ぎて、毛氈を取り落としたかと思い、畠の方へ行った途端、何かぴっかりしたものがある。毛氈と見えたのは赤い舌で、光ったのは双眼であったから、びっくり仰天して駈け込んで来た。そのうち風雨烈しく、畠の方から竜が天上した。よくよく強い風だったらしく、吹き外した雨戸を皆塀際へ吹き付け、それが残らず立て掛けたようになっていた。

 「甲子夜話」には白竜を視るの記がある。これは松浦静山侯が親しく竜を見たわけではない。寛政三年の夏、長崎から来た客があって、自分の知っている僧が先年白竜を見た、嘘をつくような男ではないから、本当の話だと思う、と云った。それではその事実を書き留めようと云ったら、已に僧自身が書いて居ります、と示したのが漢文の「視白竜記」なのである。竜を見たのは肥前の武雄で、温泉に一浴してから、駅の西にある山に登って見た。山の中腹ぐらいのところに池があり、水が極めて清冷であったので、同行の数人が皆掬って飲む。僧も一番最後に飲もうとして、水中に異物が蟠(わだかま)るのを認めた。まさしく竜である。角あり、髯あり、髭あり、氷雪の如く純白であるが、瞳だけが浅黒い。頭の長さ七八寸、太さは手で拱するぐらい、上体二尋ばかりは見えるけれど、下体は洞穴の中にでも在るか、よく見えぬ。顔つきは寧ろ端厳で、恐ろしくはなかった。同行者を呼んで来て見ろと云ったところ、誰も来ぬうちに竜は姿を隠してしまった。旅宿に帰って亭主にこの話をしたら、それは多分あの山の神様でございましょう、まだ誰も見たという話を聞いて居りません、と云った。宝暦十三年七月二十一日の事とあるから、長崎の客は二十八年後にこれを語ったわけである。「甲子夜話」はここに洞穴から上体を現している竜の画を挿んでいるが、この竜は全く池中の物なので、雲を呼び雨を降らす一般の話とは大分距離がある。」

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posted by Fukutake at 07:39| 日記