2022年07月10日

お酒もOK

「アラブ飲酒詩選」 アブー・ヌワース 塙 治夫 編訳 岩波文庫 

酒を注げ、それから歌え p18〜

 「新説をもちだして私を責めた者がいる。
    それは私にはとても耐えられないやりかただ。

 彼は私を責めた。 酒を飲んではならない、
   酒をたしなむ者は重罪を犯すことになるからだと。

 私を責める人は私を一層酒に執着させるだけ、
   私は生きている限り、酒の仲間だ。

 私が酒を拒むのか? アッラーもその名を拒まず*、
   そら、信徒達の長*(おさ)はその友なのに。

 酒は太陽、ただ太陽は輝いて没するが、
   我が酒はすべての美点で太陽にまさる。

 我々は極楽にはすぐ住めないとしても、
   芳醇な酒こそがこの世の極楽だ。

 私を責める人よ、私に酒を注げ、それから歌え。
   私は死に至るまでその兄弟だ。

 私が死んだら、葡萄の木の側に埋めてくれ。
   私に死後、その根が骨を潤してくれるように」

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アブー・ヌワースはイスラムの下でも飲酒は許されるとの立場。

アッラー*の言葉を集めた『コーラン』にも酒の名が出てくる。

信徒達の長* イスラム教団の最高指導者カリフも酒を飲んでいることを暴露している。





posted by Fukutake at 07:12| 日記

風雲千早城

「太平記」少年少女古典文学館 第十四巻 平岩弓枝 著 講談社 1994年

千早城 p66〜

 「正成がたてこもっている金剛山の千剣破城は東西に谷が深く切れていて、人がのぼることができない断崖絶壁に守られているうえに、南北は金剛山につづいて、ほかの峰とはかけはなれているのです。つまり、べつの山から峰つづきにのぼってこられる場所でもなかったのです。
 けれども、城そのものはぐるりとまわっても一里たらずの小さなもので、そこへたてこもっている楠の軍勢はおよそ千人ばかり。
 この小さな城とわずかな城兵だけで、百万余騎の敵をひきうけた楠正成という武将の不敵さは、じつにみごとというほかはありません。
 いいかえれば、この千剣破上の合戦こそが楠正成の智将、名将ぶりを天下に知らしめたと申せましょう。

 なにしろ百万の寄せ手に対して、守るほうは千です。どうしても、大軍のほうはこんな小城ぐらいひと押しでもみつぶしてしまえるという、かさにかかった気持ちがあります。
 軍奉行、長崎四郎左衛門尉高貞にしても、最初から敵をあなどったのか、ろくな陣がまえもせず、軍兵は上からの指揮もなしに、われ先にと木戸口(入り口の木の門)のあたりへ攻めていったのです。

 待ちかまえていた楠の軍は、寄せ手を十分にひきつけておいて、とつぜん、大石を高櫓の上から投げ落とし、敵が逃げまどうところへ矢を射かけたのであっというまに五、六千人もの軍兵があるいは重傷を負い、あるいは死んでしまったのでした。
 この最初の戦いで驚いた鎌倉軍はもう攻めるのをやめて、遠巻きにして陣を構えました。」

(原文)
 「千剣破城の寄せ手は、前の勢八十万騎に、又赤坂の勢吉野の勢馳加わって、百万騎に余りければ、城の四方二三里が間は、見物相撲の場の如く打ち囲んで、尺寸の地をも余さず充ち満ちたり。旌旗(はた、のぼり)の風に翻(ひるがえり)て、靡(なび)く景色は、秋の野の尾花が末よりも繁く、剣戟の日に映じて、耀ける有様は、暁に霜の枯草に布(しけ)るが如く也。大軍の近づく処には、山勢是が為に動き、時の声の震ふ中には、坤軸須臾*(こんじくしゅゆ)に摧(くだ)けたり。此勢にも恐れずして、纔(わずか)二千人足ぬ小勢にて、誰を馮(たの)み何を待共なきに、城中にこらえへて防ぎ戦いける楠が心の程こそ不敵なれ。

 此城東西は谷深く切れて人の上るべき様もなし、南北は金剛山につづきて而も峰絶えたり。されども高さ二町にて、廻りは一里に足らぬ小城なれば、何程の事が有るべき(と)寄手是を見侮りて、初め一両日の程は向かい陣をも取らず、責支度をも用意せず、我先にと城の木戸口の辺までかづきつれてぞ上がりたりける。城中の者共少しもさはがず、静まり帰りて、高櫓の上より大石を投げかけ投げかけ、楯の板を微塵に打ち砕いて、漂うところを差しつめ差しめ射ける間、四方の坂よりころび落ち、落ち重なって手を負い、死をいたす者、う一日が中に五六千人に及べり。長崎四郎左衛門尉、軍奉行にて有ければ、手負い死人の実検をしけるに、執筆十二人、夜昼三日が間筆を置かず注(しる)せり。さてこそ、「今より後は、大将の御許なくして、合戦したらんずる輩(ともがら)をば却って罪科に行るべし。」と触(ふレ)られければ、軍勢暫く軍を止めて、先ず己が陣々をぞ構へける。」
(慶長八年 古活字本より)

坤軸須臾* 大地を支える軸を一瞬に(砕けるように)。

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「楠の心の程こそ不敵なれ」

posted by Fukutake at 07:07| 日記