2022年04月26日

オタンチン…

「漱石覚え書」 柴田宵曲  小出昌洋編 中央文庫

 p42〜
 オタンチンパレオロガス
「「吾輩は猫である」の中に出て来る「オタンチンパレオロガス」という言葉は、東羅馬の皇帝コンスタンチン・パリオゴロのもじりだという話である。この名前ならば昔巌谷小波の「世界お伽噺」でお馴染のもの(「王城乗取」「池の焼鮒」)であったが、オタンチンパレオロガスという言葉に逢著した時は、直にそれと結び付かなかった。尤もオタンチンという言葉は江戸の洒落本にある。それを東羅馬の皇帝の名に利かせたのが、漱石らしい洒落であろう。

p43〜
恵比寿
 漱石の「二百十日」には「ビールはござりませんばつてん、ヱビスならござります」という下女が出て来る。「二百十日」が「中央公論」に発表されたのは明治三十九年十月だが、この事実は漱石の熊本在住時代まで遡るべきえびであろう。鴎外が小倉在住時代の事を書いた「二人の女」を読むと、F君は机の向こう側に夷麦酒の空箱を竪に据えて本箱にしている。明治時代に於けるビールの分布状態は知らぬけれど、文学に現れたエビスビールは捜せばまだまだ出て来るに相違ない。

 山手線の恵比寿という駅は、附近にあるエビスビールの工場によって名付けられたものだが、この駅名が発表された当時、大町桂月などは「恵比寿は思ひ切つたる名前也」と一驚したことがある。爾来五十年、駅名は旧によって変わらぬ間に、エビスビールは日本ビールに改名してしまった。もう暫くしたら、駅は何故恵比寿と称するか、わからなくなるであろう。或は逆に恵比寿にあるからエビスビールと名付けたのだ、というような考証が生まれないとも限らぬ。」

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「三越前」も現今日付けるなら論議を呼びそうな駅名。
posted by Fukutake at 09:48| 日記