2021年11月19日

破滅のもと

「ベーコン」 世界の名著25 責任編集 福原麟太郎 中央公論社 

随筆集より「富について」 p170〜

 「富を徳性の邪魔物だというより、よいいい方を私は知らない。ローマの言葉の方がいっそうよい。軍隊輸送の荷物といっている。というのは荷物と軍隊との関係と同じようなのが、富と徳性との関係である。それは、無しでもすまされないし、後へ置いていくわけにもいかない。そして、前進をさまたげる。そのとおりである。しかも、それに気を取られるために、時として勝利を失うことになったり、その邪魔になったりすることになる。非常な富については、実際の効用はない。ただ、分けるためなら、このかぎりでない。その他の場合は、空想にすぎない。だから、ソロモンがいっていることであるが、「ものが多いところでは、それを消費する者が多い。そして、所有主にはそれを目で見るという以外に何があるか?」。誰の場合でも、個人的なよろこびがあるといっても、大きな富は手でさわってみるまでにはなれない。それを保管しておくということはある。それを分けたり与えたりする力がある。あるいはその評判がある。だが所主にとって実質的な効用があるわけではない。…

 ソロモンのいうところに従うと、「富は、金持ちの人間の想像の中では要塞みたいなものだ」。しかし、それは想像の中でのことで、事実の中では、必ずしもそうでないということを表現しているのはみごとである。というのは、たしかに大きな富は人を売る方が、買いだすより多かった。誇るための富を求めてはいけない。正しく得、まじめに使い、たのしく分け、満足して残すことのできるようなものにしたい。しかし、世捨て人的あるいは修道士的な軽蔑を、それらにたいしてももってはならない。キケロが巧みに述べている言葉に、「自分の財産をふやそうと求めるにあたって、明らかなのは、彼が貪欲の餌食でなく、善行の道具を手に入れようとしたことである」というのがある。またソロモンのいうことをきいて、富を急いで集めることのないように注意した方がよい。「急いで金持ちになろうとする人は無実ではいられないだろう」という。
 一文惜しみをしてはいけない。富には羽根がある。そしてときどきひとりでに飛び立たせられなければならないこともある。人はその富を親類か公共社会に残す。ほどよい額が、どちらの場合もいちばんよい。」

-----
富の独り占めは破滅の元。
posted by Fukutake at 16:38| 日記