2021年08月18日

おそるべき話

「遠野物語」 柳田國男 新潮文庫

遠野物語拾遺より 170〜

 「二二七
 附馬牛村(つくもうしむら)の阿部某という家の祖父は、旅人から泥棒の法をならって腕利きの盗人となった。しかし決して近所では悪事を行わず、遠国へ出て働きをして暮らしたと謂う。年をとってからは家に帰って居たが、する事が無く退屈で仕方がないので、近所の若者達が藁仕事をして居る傍などへ行っては、自分の昔話を面白おかしく物語って聴かせて楽しんで居た。或晩のこと、此爺が引上げた後で、厩の方が大変に騒がしい。一人の若者が立って行って見ると、数本の褌が木戸木に結び着けてあって、馬はそれに驚いて嘶くのであった。はて怪しいと思って気が附いて探って見ると、居合わせた者は一人残らず褌を盗られて居たそうな。年はとっても、それ程腕の利いた老人であったと謂う。又前庭に竿を三四間おきに立てて置き、手前のを飛び越えて次の竿の上に立つなど、離れ業が得意であった。竿と言うから相当な高さがあって、且つ細い物であったろうが、それがこんなに年を老って後も出来たものだと謂う。又此爺は、人間は蜘蛛にも蛙にもなれるものだと口癖の様に言って居たそうな。死際になってから目が見えなくなったが自分でも、俺は達者な時に人様の目を掠めて悪事をしたのだから仕方がないと言って居た。今から七八十年前の人である。猶、旅人の師匠から授かった泥棒の巻物は、近所の熊野神社の境内に埋まって居ると言う事であった。」

「二二九
 昔遠野の一日市(ひといち)の某と云う家の娘は抜け首だと云う評判であった。或人が夜分に鍵町の橋の上まで来ると、若い女の首が落ちて居て、ころころと転がった。近よれば後にすさり、近寄れば後すさり、とうとう此娘の家まで来ると、屋根の破窓から中に入ってしまったそうな。」


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昔感満載の遠野物語。

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posted by Fukutake at 09:48| 日記