「裸のサル」 デズモンド・モリス 日高敏隆 訳 角川文庫
育児 p144〜
「われわれが大人としておこなっていることの多くは、子ども時代に模倣によって吸収したことにもとづいている。しばしばわれわれは、自分が何か抽象的で高尚な道徳原則の規則にしたがって特定の行動をしていると思っている。しかしじっさいには、われわれはすべて、深くしみこんだ、そして長い間“忘れていた”まったく模倣による刷りこみにしたがって行動しているのである。社会の習慣と“信念”を変えることがきわめて難しいのは、われわれが(たくみにかくされた本能的な衝動とともに)これらの刷りこみにどうしようもなくしたがっているからである。たとえ、純粋に客観的な知性にもとづくすばらいい天才的な合理的着想にでくわしても、社会はなお、その古い習慣と偏見にしがみついているであろう。これはわれわれが、前の世代の蓄積した経験を急速に吸い取ってゆく重要な若い吸取紙時代を経てくる以上、どうしても負わなければならぬ十字架なのである。われわれは価値ある事実とともに、偏った意見を聞くように強いられているのだ。
幸いなことにわれわれは、この模倣による学習につきものの弱点に対して、強力な解毒剤を進化させている。われわれはとぎすまされた好奇心と探索しようとする強烈な衝動をもっている。これらはそれ以外の傾向に反対し、すばらしい成功をもたらす潜在力となるバランスをつくり出す。文化は、それが模倣の反復の奴隷となって硬直化したり、あるいは逆に、あまりに大胆かつ性急に探索的となったりすれば、もがき苦しむことになろう。これら二つの衝動の間に適当なバランスを保つ文化は、繁栄するだろう。今日の世界に、われわれはあまりに硬直化した文化、あまりにも性急な文化の例を数多く見ることができる。タブーと古くからの習慣の重みに完全に支配された小さな発展途上国的社会は、前者の例である。同じ社会が進んだ文化によって変革され、“援助”されるとき、それは急速に後者の例となる。急に社会的な斬新さが与えられ、天秤の片腕は上がったきりになる。結果は文化的混乱と崩壊である。模倣と好奇心、奴隷的な自動的模倣と進歩的な理性的実験、これらを完全なバランスをとりながら漸進的に獲得してゆく社会こそ幸福である。」
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模倣の力と発明の衝動とのバランス
吉川英治 俳句
「吉川英治全集 補巻3 書簡・川柳・詩歌」 講談社 1970年
気に入った俳句を抜粋
(その2)
p353〜
「きりぎりす 半ぶん啼いて 風が吹き
貧しさも 余りの果ては笑いあい
この先を 考えている 豆のつる
しょうべんの 先を曲げるよ 春の風
雨蛙 啼くや女の 肌を見て
こちら向く 林檎畑の 眸かな
もの音も あらぬ書斎の 寒さかな
炭取の 底かきさぐる 寒さかな
ゆく春や まごつく京の 五六日
こおろぎの 覗いて去りぬ 膳の端」
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素直な句です
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気に入った俳句を抜粋
(その2)
p353〜
「きりぎりす 半ぶん啼いて 風が吹き
貧しさも 余りの果ては笑いあい
この先を 考えている 豆のつる
しょうべんの 先を曲げるよ 春の風
雨蛙 啼くや女の 肌を見て
こちら向く 林檎畑の 眸かな
もの音も あらぬ書斎の 寒さかな
炭取の 底かきさぐる 寒さかな
ゆく春や まごつく京の 五六日
こおろぎの 覗いて去りぬ 膳の端」
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posted by Fukutake at 11:12| 日記
2020年09月29日
要は好み次第
「ツチヤ学部長の弁明」 土屋賢二 講談社 2003年
モテる男の条件 p75〜
「わたしには女の考えていることが分からない。あのハンドバッグが欲しい、おいしいものを思いきり食べたい。家事をしたくない、ツチヤはカスだ、と考えているところまでは分かるが、それ以上は見当もつかない。太い体をゆすって食べ放題の店に行くのを見て、体型へのこだわりはふっきれたのかと思うと、毎日スポーツジムへ通っているのだからわけが分からない。
女が考えていることが分からないため、よかれと思ってすることがたいてい裏目に出てしまう。助手が元気のなさそうな顔をしているとき、心配して「食べすぎたのか、それともカード破産したのか、それとも仕事をサボりすぎて良心が痛むのか」と聞くと怒られるし、妻が精神的向上を望んでいるのかと思って、誕生日に『純粋理性批判』と『男に愛される女になるための十ヶ条』を贈ると怒られる。贈り物をされるのがイヤなのかと思って何も贈らなくても怒られる。
もしかしたらわたしは尊敬されていないのかもしれない。好意ももたれていない可能性さえある。せめて邪魔者扱いをしないでほしいと思うが、考えてみれば、今の時代は、男がほとんど必要なくなっている時代だ。女は仕事をもち、子どもを生むにも、精子バンクを利用すれば出来のいい子を作ることができる。女が男を必要とするのは、ゴキブリを殺す時だけだ。この世からゴキブリがいなくなったら、そのときが男がお払い箱になるときである。
しかし、すべての男がゴミ扱いされているわけではない。一部の男は異常にモテており、キムタクやブラッド・ピットなど、わたしと大して違わないように思える男が必要以上にモテているのである。女がどんな男を好むのか、色々な女から意見を聞いてみた。
出てきた意見はまちまちだった。人によって意見があまりにも違う。よほど一人一人が勝手なのだろう。意見の中には、「セクシーな男がいい」という意見もあったが、「セクシーな男」の意味を問い詰めると、結局、「魅力的な男」という、何の参考にもならない意見であることが判明した。また、外見について長々と希望を述べる女もいたが、そういうどうにもならないことを希望する女を、わたしとしては軽蔑するしかない。参考になりそうな意見をまとめると、
「頼れる男」「頼りない男」「不良っぽい男」「無鉄砲な男」「リードしてくれる男」「やさしい男」「対等のパートナー」「かわいい男」「少年らしい男」「眼鏡をかけている」「何でもいい」
女は不可解すぎる。」
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「自分の希望通りなら何でもいい」
モテる男の条件 p75〜
「わたしには女の考えていることが分からない。あのハンドバッグが欲しい、おいしいものを思いきり食べたい。家事をしたくない、ツチヤはカスだ、と考えているところまでは分かるが、それ以上は見当もつかない。太い体をゆすって食べ放題の店に行くのを見て、体型へのこだわりはふっきれたのかと思うと、毎日スポーツジムへ通っているのだからわけが分からない。
女が考えていることが分からないため、よかれと思ってすることがたいてい裏目に出てしまう。助手が元気のなさそうな顔をしているとき、心配して「食べすぎたのか、それともカード破産したのか、それとも仕事をサボりすぎて良心が痛むのか」と聞くと怒られるし、妻が精神的向上を望んでいるのかと思って、誕生日に『純粋理性批判』と『男に愛される女になるための十ヶ条』を贈ると怒られる。贈り物をされるのがイヤなのかと思って何も贈らなくても怒られる。
もしかしたらわたしは尊敬されていないのかもしれない。好意ももたれていない可能性さえある。せめて邪魔者扱いをしないでほしいと思うが、考えてみれば、今の時代は、男がほとんど必要なくなっている時代だ。女は仕事をもち、子どもを生むにも、精子バンクを利用すれば出来のいい子を作ることができる。女が男を必要とするのは、ゴキブリを殺す時だけだ。この世からゴキブリがいなくなったら、そのときが男がお払い箱になるときである。
しかし、すべての男がゴミ扱いされているわけではない。一部の男は異常にモテており、キムタクやブラッド・ピットなど、わたしと大して違わないように思える男が必要以上にモテているのである。女がどんな男を好むのか、色々な女から意見を聞いてみた。
出てきた意見はまちまちだった。人によって意見があまりにも違う。よほど一人一人が勝手なのだろう。意見の中には、「セクシーな男がいい」という意見もあったが、「セクシーな男」の意味を問い詰めると、結局、「魅力的な男」という、何の参考にもならない意見であることが判明した。また、外見について長々と希望を述べる女もいたが、そういうどうにもならないことを希望する女を、わたしとしては軽蔑するしかない。参考になりそうな意見をまとめると、
「頼れる男」「頼りない男」「不良っぽい男」「無鉄砲な男」「リードしてくれる男」「やさしい男」「対等のパートナー」「かわいい男」「少年らしい男」「眼鏡をかけている」「何でもいい」
女は不可解すぎる。」
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「自分の希望通りなら何でもいい」
posted by Fukutake at 08:28| 日記