2018年07月02日

子どもの幸せ

「シボレーサマー(Chevrolet Summer, Dairy Queen Night of Cloudless and Carefree American Days)」 ボブ・グリーン 著  桜内 篤子 訳
TBSブリタニカ 1999年


 親子のふれあい
27p〜
 「… 土曜の朝、アトランタからシカゴに帰ろうとしていたときだ。巨大な空港の中央ターミナルと搭乗ゲートを結ぶ電車に乗った。無料で清潔。だが味気はない。
 ところがこの朝、電車の前の方から笑い声が聴こえてきた。線路やこれから入ろうとするトンネルがよく見える一台目の先頭のところに親子が立っていた。息子は五歳ぐらい、父親は三〇代前半ぐらいだろうか。
 最近は活字で人種に言及するのは避けるべきだという風潮があるが、あえていわせてもらうなら、その電車に乗っていた人の大半は中流階級の白人だった。出張帰りか休暇に行くところといういでたちだった。その親子は黒人で、これ以上安いものはないだろうというような服を着ていた。電車に乗っていた人はみな機内に持ち込むスーツケースやブリーフケースやバッグパックをもっていたが、その親子だけは手ぶらだった。
 一般の乗客にとって空港は、やむをえず通過する退屈なところにすぎない。だからみんないかにもつまらなそうに乗っていたが、その親子だけは楽しそうだった。
「ほら、見てごらん、廊下をパイロットが歩いているだろ。これから操縦する飛行機にむかっているんだよきっと」と父親が言うと、息子は首を伸ばして一所懸命見ようとした。
 僕は搭乗ゲートでいったん降りたが、ターミナルで買い忘れたものを思いだし、まだ時間があったので、戻ることにした。買い物を終えてもう一度乗ろうとすると、先ほどの親子がまたそこにいた。
「帰ろうか」と父親が言うと、「もっと乗りたい」と息子が答えた。
「もっとだって?」まいったような顔をしてみせたが、父親は嬉しそうだった。「まだ疲れないのかい?」
「だって楽しいんだもん」
「わかったよ」父親は言い、電車のドアが開くと乗り込んだ。

 ヨーロッパ旅行やディズニーランドに連れて行っても、ろくでもない大人になる子は多い。大邸宅に住み、車を与え、自宅のプールで好きなだけ遊ばせても、まともな人間に育たない子もいる。裕福な環境でも貧しい環境でも、黒人社会でも白人社会でも、たくさんの子が道を外してしまっている。

「お父さん、この人たちどこへ行くの」男の子が聞くと、父親は「世界中だよ」と答えた。この父親は土曜日の朝、息子を連れて飛行場にやってきた。飛行場にいるほかの人たちはこれからどこか遠い目的地に向かうか、旅を終えて帰ってきたところだったが、この親子は電車に乗るためにやってきていた。親子で一緒に時間を過ごすために。そして無料の電車に乗るというつつましい体験を「冒険」していた。休みの朝を共に過ごすには絶好の場所だったのだ。」


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子どものためにできるだけのことをしてやること。
posted by Fukutake at 08:10| 日記