2018年05月10日

その赤は同じか

「遺言」 養老孟司  
−これだけは言っておきたかった− 80歳の叡智がここに! 
 新潮新書 2017


116p〜

 「芸術作品の唯一性と深く関連した概念がある。それはクオリアである。クオリアを精細に論じると厄介なことになる。簡単に説明しようと思って、ウィキペディアを参照したら、エライことになった。説明の長いこと、長いこと。しょうがないから、詳しいことは茂木健一郎に聞いてくれ、というしかない。

 クオリアは英語の質(quality)と関連している。語源はラテン語である。言葉の上では、クオリアは感覚の与える質感のようなものを指す。ただしこの質感は、他人に感知できない。子どもの時に考えたことはないだろうか。私が見ている赤色を、友だちはどういう色として見ているのだろうか。ひょっとしたら、私の見ている青の感じで受け取っているかもしれない。

 この説明で即座にわかる人もいるだろうし、まったくわからないという人もいるかもしれない。学生の三分の一は、この話がわからない。そういう研究報告をした人もある。脳の回路が人によって違っているのかもしれない。
 ともあれ、人がなにかを感じる時、その感じそのものを他人が感知することはできない。患者さんが痛い、痛いと言っている時に、実際どう痛いのか、医者は体験できない。教師時代によくやったことだが、学生が「説明してください」という時に、男子学生だったら、「説明したら。陣痛がわかると思うか」と言ってやった覚えがある。

 現代社会のように、情報が溢れている中で育つと、すべては説明可能だといつの間にか信じ込む。少し意地が悪いと思ったけれど、私は言葉の限界についての無知を注意しただけである。…」

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感覚は伝わらない。
posted by Fukutake at 09:20| 日記