2017年11月02日

人間は合理的な動物か?

「かくて行動経済学は生まれけり」 マイケル・ルイス  渡会 圭子 訳 
『FACTA』主筆 阿部 重夫(解説) 文藝春秋 2017年
(その2)

期待効用理論では、人の意思決定を予測できない。

 「期待効用理論は一つの理論にすぎなかった。何かリスクのある決定を前にして人がどのような行動をするかを説明したり、すべてを予測したりできるものではない。ダニエル(カーネマン)がその重要性を何とか理解したのは、大学院生向けの教科書に書かれたエイモス(トヴェルスキー)の説明を読んだからではなかった。エイモスの話し方から察したのだ。「それはエイモスにとって神聖なものだった」とダニエルは言う。
 その理論は、心理学上の真実であると強固に主張されてはいなかったが、エイモスが共同で執筆した教科書では、心理学上の真実として受け入れられていると明確に述べられていた。このようなことに関心のあるほぼすべての人、経済学の研究者全体を含む集団が、それを一般的な人がリスクのある選択を行うときにとる行動についての公正な説明と受けとめたようだった。そうした根拠のない信頼には、経済学者が政治指導者にする助言に与えるような影響が、少なくとも一つあった。人々に選択の自由を与え、、市場には介入しないという方向に、すべてを傾けてしまうということだ。人が基本的に合理的だと考えられるなら、市場も合理的だと考えられるからだ。
 エイモスは特にこれについて、ミシガン大学の大学院生だったときから不思議に思っていた。彼は他人のアイデアの弱点を見抜くことに関しては、ほとんど野生の勘のようなものを持っていた。だから当然、人はその理論では予測できない意思決定を行うことを知っていた。エイモス自身も、理論ではそうならないはずなのに、人はなぜ“非推移的”になるのかについて調べたことがある。大学院生だったとき、ハーバード大学の大学院生とミシガンの刑務所の囚人たちを対象に実験を行い、ギャンブルCよりB、BよりAを選びながら、AよりCを選ぶという結果を、何度も引き出した。それは期待効用理論の原則に反している、しかし、エイモスは彼の疑念をそれ以上、深く追求しなかった。人は間違うときもある。不合理な意思決定を行うことはあるが、そこに決まった形があるとは思っていなかった。人間の性質についての深い見識を、どうすれば意思決定の数学的研究に持ち込めるか、彼はまだその方法を見つけていなかった。」
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行動経済学誕生のお話。
「推移的」とは、CよりBを好み、BよりAを好むなら、CよりAを好む、ということ。
posted by Fukutake at 10:58| 日記