2016年11月28日

ヌキテパ

「木米と永翁」宮崎一定 中公文庫 昭和63年

感想と提言

197p〜

抜き鉄歯
 「下司の知恵はあとから出るというが、外国の滞在から帰ってくると、向こうではノドにつかえて少しも出てこなかった外国語が、今度はむしょうに口をついて続々と飛びだし、かえって困るようなことをよく経験する。これは私ひとりだけのことではないらしい、新聞にでる大きな広告に、カタカナまじりの文章を書く人たちなど、さしずめ私の同類にちがいないな、と時々思う。
 近ごろ、海外旅行ブームにあわせて、世界の旅などと名のついた出版物が、あちこちの本屋から出ており、美しいカラー写真がはいっていて、それらを見ていると、前の旅行の記憶がまざまざとよみがえってきて、なかなか楽しい。そして、その折りにはさっぱり話せなかった単語が、またもやすらすらと頭にわいてきて我ながらおかしく思うことがある。
 パリの中心近く、モネの絵にも出てくるが、St. Lazare という古い大きな停車場がある。文字通り読めば、サン•ラザールだが、パリっ子は、これをサ•ラザールと発音する。これで住民と非住民とが大たい区別できるという。ちょうど京都人が烏丸をカラスマと発音するようなものである。ところで、近ごろ私が見た世界の旅の本では、どれもこれも一様にサン•ラザールと読んでいる。どちらにしても大したことではないが、しかしだれか一人ぐらいはサ•ラザールと書いてもよかったのではないかと思う。これは決して気障にはならない。私が京都に来たばかりの時、カラスマという発音に多分の反発を感じたものだが、今では自分で気付かぬまにカラゥマと言ってしまうようになった。カラスマルまで言われると、かえって違和感を覚える。
 
 どこに国にも、電話に多く用いられる特殊なことばがある。フランスでよく聞かされた電話語にヌキテッパ Ne quittez pas ということばがある。文字通りには、立ち去るな、そこを動かぬように、という意味だが、電話の場合には特に、受話器をそのまま耳にあてて待っていて下さい、という意味になり、同時に、他の人と代わりますから、という意味をも含んで、大変便利なことばである。代わりの人がなかなか出てこぬときは、なんべんでもこのことばを繰り返し言い続ける。私はこれに、抜き鉄歯、という字をあてて覚えた。
 ところが、これにうまく該当する表現が日本語にない。時々電話がかかってきて、同局何番ですか、と聞かれるのはいいが、それっきり何の音もせずに時間が過ぎる。あまり長くなると、何かの間違いか、あるいはいたずらか、と思って電話機をおくと、しばらくしてからまた呼び出されるようなことが時に起こる。これはエチケットのうえからも、抜き鉄歯、と言ってもらいたいところだ。…」


確かに、確かに。英語でもHold on とか Hang on、とか言われますね。
そう言えば、ロンドンの地名でSouthwark を地元ではサザークと言っていたような記憶があります。
posted by Fukutake at 13:07| 日記

2016年11月21日

1901年のロンドンにて

「漱石日記」平岡敏夫編 岩波文庫 1990年 より

英国にて

 明治三十四(1901)年
 三月十五日(金) 日本人を観て支那人といわれると厭がるは如何(いかん)。支那人は日本人よりも遥かに名誉ある国民なり。ただ不幸にして目下不振の有様に沈淪せるなり。こころある人は日本人と呼ばるるよりも支那人といわるるを名誉とすべきなり。仮令(たとい)然らざるにもせよ日本は今までどれほど支那の厄介になりしか。少しは考えて見るがよかろう。西洋人はややもすると御世辞に支那人は嫌いだが日本人は好きだという。これを聞き嬉しがるは世話になった隣の悪口を面白いと思って自分が景気がよいという御世辞を有難がる軽薄な根性なり。

三月十六日(土) 日本は三十年前に覚めたりという。しかれども半鐘の声で急に飛び起きたるなり。その覚めたるは本当に覚めたるにあらず。狼狽しつつあるなり。ただ西洋から吸収するに急にして消化するに暇(いとま)なきなり。文学も政治も商業も皆然(しか)らん。日本は真に目が醒ねばだめだ。
(略)

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夏目漱石のロンドンでの感慨。慧眼以て銘ずべし。
posted by Fukutake at 08:36| 日記

2016年11月14日

ひなちゃん大賞

「産經新聞 平成28年10月24日(月曜日)朝刊掲載コラム

ひなちゃんのほのぼのつぶやき大賞 より

○ 散々注意しても片付けない息子(6歳)に「何度言ったらわかるの!」と叱ると…
『(泣きながら)1回でわかります』

○ 雨が毎日続いていたある日、6歳の娘が空を見上げてホツリ
『雲さん、そんなに悲しいことがあったの?』


まさに天使のことば
posted by Fukutake at 09:30| 日記